1966年アメリカグランプリ

1966年アメリカグランプリ：高額賞金とBRMエンジンの奇跡

1966年10月8日、アメリカ合衆国ニューヨーク州ワトキンズ・グレン・グランプリコースにおいて、F1世界選手権第8戦、1966年アメリカグランプリが開催されました。このレースは、アメリカグランプリとしては9回目の開催（アメリカン・グランド・プライズを含むと16回目）、ワトキンズ・グレンでは6回目の開催となりました。全長3.78kmのコースを108周、総距離408.2kmに渡る熱戦が繰り広げられました。

この年のF1世界選手権では、3リッター規定への対応に多くのチームが苦戦を強いられました。しかし、ジャック・ブラバムはシンプルで軽量なブラバム・BT19を駆り、チャンピオン争いをリードしていました。一方、本レースでは、強力だが信頼性の低いBRMのH16エンジンを搭載したロータス・43のジム・クラークが、ワトキンズ・グレンでの初優勝を目指して参戦しました。

レースは、ロレンツォ・バンディーニとブラバムがリタイアした後に、クラークがトップに躍り出ることから始まりました。彼はクーパーのヨッヘン・リントを抑え、見事トップでチェッカーフラッグを受けました。この勝利は、問題を抱えながらも潜在能力の高かったBRM H16エンジンのF1における唯一の優勝であり、F1史上最多気筒数エンジンによる優勝という記録も樹立しました。

このアメリカグランプリは、賞金制度においても特筆すべき点がありました。ワトキンズ・グレン・グランプリ・コーポレーションは従来のシステムから脱却し、エントリーした20台にはそれぞれ2,800ドル、優勝者には20,000ドルという破格の賞金を用意しました。総額102,400ドルという賞金総額は、当時のF1世界選手権で最高額であり、優勝賞金は他のすべてのレースの優勝賞金を合計した額を上回りました。この高額な賞金は、ヨーロッパのチームマネージャーやオーナー達にも大きな魅力となり、グランプリ開催への関心を高める要因となりました。

高額賞金は、完走の重要性をより一層高めました。クラーク自身も、BRM H16エンジンの信頼性への不安から、より信頼性の高い2リットルクライマックスV8エンジンを使用するかを最後まで悩んだほどです。予選では、バンディーニがフェラーリ312で初めて1分08秒67を記録、190km/hの壁を突破しました。土曜日の最終セッションでは、ブラバムがポールポジションを獲得、クラークが2番手につけました。しかし、クラークのマシンはオイル漏れが発生し、急遽BRMから予備エンジンを提供を受ける事態となりました。

決勝日、75,000人の観客が見守る中、クラークはBRM H16エンジンを搭載したロータス43でレースに臨みました。レース序盤はバンディーニがトップを走行、その後ブラバムがトップに立ちましたが、34周目にバンディーニ、56周目にブラバムがそれぞれエンジンブローでリタイア。クラークがトップに躍り出ました。激しい追い上げを見せるサーティースを振り切り、クラークはBRM H16エンジンに初の勝利をもたらしました。リントは2位、サーティースが3位に入賞しました。ホンダ勢は、マシン開発の遅れから苦戦を強いられ、完走を果たせませんでした。

この1966年アメリカグランプリは、高額賞金、BRM H16エンジンの意外な勝利、そしてドライバーたちの熱い戦いが凝縮された、記憶に残るレースとなりました。

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