1968年の日本の女性史

1968年の日本の女性たち

1968年は、日本の女性たちが社会の様々な課題に対し、積極的に声を上げ、権利や生活の改善を求める動きが活発化した年でした。この年、女性たちは物価の上昇や重税に反対する集会を開き、生活の安定を強く政府に求めました。

特に労働分野では、女性の権利確立に向けた重要な進展が見られました。1月には、就労中の事故で亡くなった主婦の家事労働に対し、家政婦の賃金を基準に経済的価値を算定する高裁判決が出され、家庭内労働の評価に関する議論を促しました。また、3月には新潟県立病院で看護師たちが夜勤改善を求めて実力行使を行い、その成功が全国の病院での看護師の夜勤制限闘争に波及する契機となりました。これは後に「ニッパチ闘争」として知られるようになります。

女性の雇用における不平等に対しても、抵抗の動きが広がりました。民放労働組合の女性組合員たちは、若年定年制や結婚退職制、男女間の定年差別に反対し、初の全国的な統一行動日を設け、ストライキも実施しました。職場結婚を理由とした解雇を無効とする判決や、希望退職者の指名基準における女性差別を無効とする判決も出され、女性の働く権利が司法の場で認められる動きが見られました。また、産前産後休業を査定で不利に扱わないよう求める運動や、女性嘱託社員の正社員化に成功する事例もありました。

仕事と育児の両立を支援する動きとしては、日本電信電話公社が育児休職制度を本格的に実施し、千葉県松戸市では家庭保育制度が始まりました。保育所の不足に対する自治体の取り組みも見られましたが、無認可保育所への公費助成を巡っては憲法論争も起こりました。

社会運動への女性の参加も目立ちました。公害パトロールを行う主婦団体が現れ、九州大学に米軍機が墜落した事件を受けて、主婦らが米軍基地撤去を求める署名活動を開始しました。また、三里塚での空港建設反対運動では、女性行動隊が独自の隊列を組んで登場しました。沖縄では、嘉手納基地でのB52爆撃機墜落事故に対し、女性たちが中心となった大規模な抗議集会とデモ行進が行われました。これは沖縄戦後初めての女性だけによるデモと報じられています。平和を願う活動として、原爆記念日に平和カードを配布する活動や、沖縄返還を求める署名活動も活発に行われました。

健康問題では、女性のガンによる死亡根絶を目指す活動や、早期発見のための検診車配置が進められました。また、キーパンチャーなど一部の職業で問題となっていた頸肩腕症候群が、女子職員や国家公務員に対して職業病・公務災害として初めて認定されるという重要な出来事がありました。これにより、女性労働者の健康問題に対する認識が高まりました。

家庭や私生活に関しても変化が見られました。分譲住宅の夫婦共有が認められ、老齢福祉年金の夫婦減額制限が違憲とする判決が出ました。母親大会は農村部への浸透を目指し、開催地を福島市に移しました。この年の世論調査では、人工妊娠中絶の理由として住宅事情を挙げる割合が都市部で高いことが示されています。

文化面では、男性向け漫画に性描写が登場し、子どもの間でスカートめくりが流行するなど、ジェンダー表現と子どもへの影響が社会問題となりました。一方で、年末のNHK紅白歌合戦で女性歌手の多くがパンタロンスーツを着用し、パンタロンがブームとなるなど、女性のファッションにも変化が見られました。

この年の調査では、農業就業における主婦の割合が減少し、「三ちゃん農業」から主婦が抜けた「二ちゃん農業」への移行が進んでいる状況が示されました。農外で働く女性の目的として生活費や教育費の補充が多く挙げられています。また、統計調査で「男女どちらに生まれたいか」という問いに対し、女性という希望が初めて男性という希望を上回るなど、女性自身の意識にも変化の兆しが見られました。参議院議員選挙では女性候補者が当選し、女性の政治参加も進みました。

1968年は、女性たちが労働環境の改善、生活の安定、平和、人権などを求め、多様な方法で社会に働きかけた、日本の女性史における重要な節目の一つと言えるでしょう。

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