1975年の日本の女性史

1975年は国連が定めた「国際婦人年」にあたり、日本でも女性の権利や地位向上に向けた動きが活発化した一年でした。政府は内閣総理大臣を本部長とする「婦人問題企画推進本部」を設置し、女性問題解決のための計画策定に乗り出しました。メキシコシティで開催された国際婦人年世界会議には日本からも代表が参加し、「世界行動計画」が採択されるなど、国際的な潮流が国内にも影響を与えました。

この年は、特に経済不況下での女性の労働問題が顕在化しました。繊維産業での大規模な離職発表、東芝や帝国臓器製薬、福井県清水町などでの希望退職勧奨や一方的な解雇通告、既婚女性や中高年女性を対象とした人員整理の提案が相次ぎました。しかし、これに対して働く女性たちは声を上げました。マックス高崎工場での体罰問題化、秋田相互銀行やコバル（株式会社）での男女差別賃金・解雇に対する違憲・無効判決、平戸農協での女子職員定年延長決定など、司法の場で権利を勝ち取る動きが見られました。静岡銀行労組も男女差別賃金の是正を求めて提訴しています。また、三菱商事や三井物産が女子大卒の採用を絞る方針を発表するなど、女子学生の就職難も深刻化し、これに対する懸念から「女子学生の就職問題を考える会」が結成されました。

労働環境改善を求める運動も広がりました。民間社会福祉労働組合は保母の人員増と労働基準法遵守を求めてデモを実施。国家公務員労働組合は産前産後休暇延長を要求し、国公立大学婦人職員は定員化や学内保育所設置を求める集会を開きました。労働省は就業における男女平等問題を議論する研究会議を開催し、国家公務員試験での女性差別改善を指示するなど、行政側も是正に向けた動きを見せました。

育児休業に関しては、野党が育児休暇法案を共同提案し、義務教育諸学校等の女子教育職員等の育児休業に関する法律が公布されました。これにより、特定の職業の女性に育児休業が認められるようになりました。失業給付の受給期間も、妊娠・出産・育児で就業できない場合に最長4年まで延長されるなど、社会保障面での改善も図られました。

市民レベルでは、「行動を起こす女たちの会」が発足し、男女役割分担の打破や社会通念の変革を目指した活動を展開しました。NHKに対する性差別改善要求や、ハウス食品の「わたし作る人・ボク食べる人」CMの放送中止要求などがその一例です。保育問題では、障害児の保育所入所を求める母親の座り込みや、保育時間の延長を拒否する職員組合と保護者の対立、中野区での公立0歳児専門保育所の開設、長崎市での夜間保育所開設など、多様なニーズが浮き彫りになりました。ピル解禁を求める中ピ連や、その副作用を警告する日本医師会など、避妊や母子保健に関する議論も活発でした。厚生省は母乳育児効果の研究班を発足させましたが、母乳中のPCB汚染も問題となりました。教科書に登場する男女像の偏りを指摘する調査結果も発表され、家庭科の男女共修を求める声が上がりました。核兵器廃絶や反原発を訴える集会にも多くの女性が参加し、社会問題に対する関心の高まりを示しました。また、DV被害者のための「女たちの家」構想や、離婚した母親の家の設置要望など、女性の抱える新たな困難に対する支援を求める動きも生まれました。

政治分野では、統一地方選挙で女性当選者数が増加し、京都市では政令指定都市初の女性議長が誕生しました。衆参両院で「国際婦人年にあたり婦人の社会的地位の向上をはかる決議」が全会一致で採択されるなど、国会でも女性問題が取り上げられる機会が増えました。法務省は離婚による復氏を選択制にする民法改正の検討を進めるなど、法制度の見直しも議論されました。

教育分野では、女子の4年制大学進学率が初めて1割を超え、短大と合わせると3割以上に達するなど、高等教育を受ける女性が増加しました。しかし、大学の学費値上げ反対運動も発生しています。

その他、田部井淳子氏によるエベレスト登頂、沢松和子氏のウィンブルドン女子ダブルス優勝など、女性スポーツ選手の活躍が国民に勇気を与えました。芸術分野では、日本人女性初の建築士（早間玲子氏）がフランスで誕生したり、少女漫画家（萩尾望都氏ら）の人気が高まるなど、女性の才能が開花した年でもありました。一方で、離婚件数が史上最高を記録し、教育ママによる事件や母子自殺など、女性や家族を取り巻く困難な現実も存在しました。

1975年は「国際婦人年」という大きな枠組みの中で、日本の女性たちが自らの権利を主張し、社会を変えようと行動を起こした、権利意識が高まった転換点と言える一年でした。不況という逆風もありましたが、労働、教育、社会活動、政治など、様々な側面でその後の変化への布石が打たれた年でした。

もう一度検索