1976年の日本の女性史
日本の1976年（昭和51年）は、女性の社会における立場や権利、そしてライフスタイルに関する様々な動きが顕著になった年として記憶されています。この年、社会、法制度、労働環境、メディア、そして人々の意識や生活習慣に至るまで、多岐にわたる分野で女性に関する出来事が展開されました。
年明け、NHKのテレビドラマ『となりの芝生』が嫁姑の対立という普遍的な家庭内問題をリアルに描き、大きな反響を呼びました。これは、当時の家族関係における女性間の葛藤に社会の注目が集まった一例です。
法制度の面では、女性が自身の意に反する離婚届の提出を防ぐため、「離婚届等不受理申し出制度」が導入されました。また、人工妊娠中絶が法的に認められる期間が、厚生省の通知により妊娠6ヶ月までと1ヶ月短縮されました。
メディアの世界に新たな風を吹き込んだのが、2月2日に放送を開始した黒柳徹子氏のトーク番組『徹子の部屋』です。様々な分野で活躍するゲストを迎えるこの番組は、女性が司会を務めるトーク番組として後のメディアに影響を与えました。
企業の動きでは、本田技研工業が女性向けのミニバイク「ロードバル」を2月に発売。女性の行動範囲を広げるための新たな交通手段として注目されました。
女性の社会進出においては、3月4日、国家公務員試験の初級行政事務B（警察関連）に女性の受験資格が初めて認められました。これにより、これまで事実上男性に限定されていた職域への女性の参入が進む可能性が開かれました。
国際的な問題にも目が向けられました。3月にはベルギーで「女への犯罪を告発する国際会議」が開かれ、日本代表は国内のトルコ風呂における売春問題に言及しました。また、フィリピン労働次官からは、偽装結婚によって日本へ密売され、売春組織の餌食になっているフィリピン女性の実態に関する声明が出されるなど、国際的な視点からの女性の人権問題が提起されました。
外交分野での画期的な出来事として、4月1日、緒方貞子氏が日本女性として初めて国連公使に就任。国際舞台での女性の地位向上を示す象徴となりました。
女性たちの運動も活発でした。4月10日には、女性の政治参加の礎となった婦人参政権の行使開始から30周年を記念する大会が開催されました。また、「行動を起こす女たちの会」は、「夫の給料は誰のものか」と題したパネルディスカッションを実施し、夫婦間の財産権や労働に対する意識に問いを投げかけました。
社会的な不正への関与も深まりました。5月14日、日本婦人有権者同盟や主婦連合会などが協力し、「ロッキード疑獄の真相究明を要求する婦人実行委員会」を結成。女性たちが市民運動の一翼を担いました。
法改正としては、5月21日に民法第767条が改正され、離婚後も婚姻中の姓を名乗ることが認められるようになりました。これは、離婚を選択した女性が社会生活で不便を感じることなく、アイデンティティを維持しやすくするための重要な一歩でした。
労働現場での差別問題も顕在化しました。日本テレビの村上節子アナウンサーは、「顔や声が衰えてテレビ写りが悪くなった」という理由での配置転換に対し、その無効を求める仮処分を申請しました。この問題は、女性労働者に対する年齢や外見に基づく差別の典型として注目を集め、後に東京地裁による配転命令無効の判決（7月23日）につながりました。
司法界では、7月12日に日本弁護士連合会内に「女性の権利に関する委員会」が設置され、女性が直面する法的問題への専門的な対応が進められることになりました。しかし、司法研修所の教官による「男が生命をかける司法界に女の進出を許してなるものか」といった女性蔑視発言があり、これに対して女性弁護士らが強く抗議するなど、旧来の意識との摩擦も発生しました。
行政サービスでは、8月に東京都に都民生活局が発足し、女性問題に関する総合的な相談窓口が開設されました。これにより、DVやハラスメントなど、女性が抱える様々な困難に行政が寄り添う体制が強化されました。
当時の人々の意識を測る指標として、総理府が行った「婦人に対する世論調査」が注目されました。「男は仕事、女は家庭」という考え方に「同感」が49%、「反対」が40%となり、伝統的な性別役割分業意識が依然として強い一方で、変化を求める声も無視できない状況であることが浮き彫りになりました。
労働分野での男女平等に向けた提言も行われました。10月5日、労働省の婦人少年問題審議会は、「雇用における男女の機会均等と平等の促進に関する建議」をまとめ、職場での性別による不平等を是正するための具体的な方策を提示しました。これと連携して、国際婦人年連絡会は、日本の国内行動計画に関する要望書を政府に提出しました。
具体的な差別の是正勧告も出されました。10月には、大阪中央労働基準監督署が三和銀行に対し、男女間の賃金格差を是正するよう行政指導を行いました。
労働省は、女性が抱える諸問題について議論する場として、11月5日に第1回日本婦人問題会議を開催しました。この会議はその後も継続され、女性政策の形成に重要な役割を果たしました。
司法界での女性の登用も進み、11月20日には最高裁が司法研修所に初の女性教官を起用しました。
教育分野では、総理府婦人問題企画推進会議が家庭科教育に関する意見書をまとめました。この中で、男女が共に家庭科を学び、現代社会のニーズに応じた新しい家庭科教育を推進する必要性が強調されました。
行政による情報公開としては、11月に「厚生白書」が発表され、「女性と社会保障」に関する内容が初めて詳細に扱われました。これにより、女性を取り巻く社会保障や福祉の状況が客観的に示されました。
これまで女性の仕事と見なされることが多かった保育士の分野にも変化があり、12月16日には厚生省中央児童福祉審議会が男性の保育士、いわゆる「保父」を公認することを決定しました。
1976年には、社会的な現象もいくつか見られました。夏のファッションでは、布地の少ない極端なデザインの水着が流行し、また女性の間でロングブーツが人気を集めるなど、スタイルに変化が見られました。
労働市場では、前年に比べて女子就業者数が21万人減少しました。これは当時の景気動向や、女性のライフスタイルの選択など、様々な要因が影響した結果と考えられます。
社会の抱える新たな問題として、警察白書で初めて「主婦の蒸発」が取り上げられました。これは、家庭内に潜む問題や女性の抱える困難が社会的な関心事となったことを示しています。
また、高齢化社会の兆しとして、東京都小平市では高齢者を対象とした公立の結婚相談所が開設されました。これは、高齢期の単身者の増加や、人生の伴侶を求めるニーズへの対応として注目されました。
1976年は、これらの多角的な出来事を通じて、日本の社会全体が女性の権利や地位、そして多様な生き方について考え始める重要な転換期の一つであったと言えるでしょう。
前半（1月〜6月）の主な出来事
年明け、NHKのテレビドラマ『となりの芝生』が嫁姑の対立という普遍的な家庭内問題をリアルに描き、大きな反響を呼びました。これは、当時の家族関係における女性間の葛藤に社会の注目が集まった一例です。
法制度の面では、女性が自身の意に反する離婚届の提出を防ぐため、「離婚届等不受理申し出制度」が導入されました。また、人工妊娠中絶が法的に認められる期間が、厚生省の通知により妊娠6ヶ月までと1ヶ月短縮されました。
メディアの世界に新たな風を吹き込んだのが、2月2日に放送を開始した黒柳徹子氏のトーク番組『徹子の部屋』です。様々な分野で活躍するゲストを迎えるこの番組は、女性が司会を務めるトーク番組として後のメディアに影響を与えました。
企業の動きでは、本田技研工業が女性向けのミニバイク「ロードバル」を2月に発売。女性の行動範囲を広げるための新たな交通手段として注目されました。
女性の社会進出においては、3月4日、国家公務員試験の初級行政事務B（警察関連）に女性の受験資格が初めて認められました。これにより、これまで事実上男性に限定されていた職域への女性の参入が進む可能性が開かれました。
国際的な問題にも目が向けられました。3月にはベルギーで「女への犯罪を告発する国際会議」が開かれ、日本代表は国内のトルコ風呂における売春問題に言及しました。また、フィリピン労働次官からは、偽装結婚によって日本へ密売され、売春組織の餌食になっているフィリピン女性の実態に関する声明が出されるなど、国際的な視点からの女性の人権問題が提起されました。
外交分野での画期的な出来事として、4月1日、緒方貞子氏が日本女性として初めて国連公使に就任。国際舞台での女性の地位向上を示す象徴となりました。
女性たちの運動も活発でした。4月10日には、女性の政治参加の礎となった婦人参政権の行使開始から30周年を記念する大会が開催されました。また、「行動を起こす女たちの会」は、「夫の給料は誰のものか」と題したパネルディスカッションを実施し、夫婦間の財産権や労働に対する意識に問いを投げかけました。
社会的な不正への関与も深まりました。5月14日、日本婦人有権者同盟や主婦連合会などが協力し、「ロッキード疑獄の真相究明を要求する婦人実行委員会」を結成。女性たちが市民運動の一翼を担いました。
法改正としては、5月21日に民法第767条が改正され、離婚後も婚姻中の姓を名乗ることが認められるようになりました。これは、離婚を選択した女性が社会生活で不便を感じることなく、アイデンティティを維持しやすくするための重要な一歩でした。
労働現場での差別問題も顕在化しました。日本テレビの村上節子アナウンサーは、「顔や声が衰えてテレビ写りが悪くなった」という理由での配置転換に対し、その無効を求める仮処分を申請しました。この問題は、女性労働者に対する年齢や外見に基づく差別の典型として注目を集め、後に東京地裁による配転命令無効の判決（7月23日）につながりました。
後半（7月〜12月）の主な出来事
司法界では、7月12日に日本弁護士連合会内に「女性の権利に関する委員会」が設置され、女性が直面する法的問題への専門的な対応が進められることになりました。しかし、司法研修所の教官による「男が生命をかける司法界に女の進出を許してなるものか」といった女性蔑視発言があり、これに対して女性弁護士らが強く抗議するなど、旧来の意識との摩擦も発生しました。
行政サービスでは、8月に東京都に都民生活局が発足し、女性問題に関する総合的な相談窓口が開設されました。これにより、DVやハラスメントなど、女性が抱える様々な困難に行政が寄り添う体制が強化されました。
当時の人々の意識を測る指標として、総理府が行った「婦人に対する世論調査」が注目されました。「男は仕事、女は家庭」という考え方に「同感」が49%、「反対」が40%となり、伝統的な性別役割分業意識が依然として強い一方で、変化を求める声も無視できない状況であることが浮き彫りになりました。
労働分野での男女平等に向けた提言も行われました。10月5日、労働省の婦人少年問題審議会は、「雇用における男女の機会均等と平等の促進に関する建議」をまとめ、職場での性別による不平等を是正するための具体的な方策を提示しました。これと連携して、国際婦人年連絡会は、日本の国内行動計画に関する要望書を政府に提出しました。
具体的な差別の是正勧告も出されました。10月には、大阪中央労働基準監督署が三和銀行に対し、男女間の賃金格差を是正するよう行政指導を行いました。
労働省は、女性が抱える諸問題について議論する場として、11月5日に第1回日本婦人問題会議を開催しました。この会議はその後も継続され、女性政策の形成に重要な役割を果たしました。
司法界での女性の登用も進み、11月20日には最高裁が司法研修所に初の女性教官を起用しました。
教育分野では、総理府婦人問題企画推進会議が家庭科教育に関する意見書をまとめました。この中で、男女が共に家庭科を学び、現代社会のニーズに応じた新しい家庭科教育を推進する必要性が強調されました。
行政による情報公開としては、11月に「厚生白書」が発表され、「女性と社会保障」に関する内容が初めて詳細に扱われました。これにより、女性を取り巻く社会保障や福祉の状況が客観的に示されました。
これまで女性の仕事と見なされることが多かった保育士の分野にも変化があり、12月16日には厚生省中央児童福祉審議会が男性の保育士、いわゆる「保父」を公認することを決定しました。
この年の社会現象
1976年には、社会的な現象もいくつか見られました。夏のファッションでは、布地の少ない極端なデザインの水着が流行し、また女性の間でロングブーツが人気を集めるなど、スタイルに変化が見られました。
労働市場では、前年に比べて女子就業者数が21万人減少しました。これは当時の景気動向や、女性のライフスタイルの選択など、様々な要因が影響した結果と考えられます。
社会の抱える新たな問題として、警察白書で初めて「主婦の蒸発」が取り上げられました。これは、家庭内に潜む問題や女性の抱える困難が社会的な関心事となったことを示しています。
また、高齢化社会の兆しとして、東京都小平市では高齢者を対象とした公立の結婚相談所が開設されました。これは、高齢期の単身者の増加や、人生の伴侶を求めるニーズへの対応として注目されました。
1976年は、これらの多角的な出来事を通じて、日本の社会全体が女性の権利や地位、そして多様な生き方について考え始める重要な転換期の一つであったと言えるでしょう。
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