1977年の航空

1977年は、航空の世界において技術開発、安全保障、そして人間による挑戦が交錯する、記憶に残る一年でした。

重大事故と安全保障の課題

この年の航空史において、最も悲劇的な出来事は、3月27日にスペイン領カナリア諸島のテネリフェ島で発生したジャンボ機同士の衝突事故です。ロス・ロデオス空港の滑走路上で、パム・アメリカン航空機とKLMオランダ航空機のボーイング747型機が衝突し、乗客乗員合わせて583人もの尊い命が失われました。これは単一の航空事故としては史上最悪の犠牲者数となり、世界に大きな衝撃を与え、その後の航空安全対策や管制システムの改善に重要な教訓を残しました。

また、航空機の安全な運航を脅かすハイジャック事件も発生しました。9月28日には日本航空機がダッカでハイジャックされ、日本政府による超法規的措置が大きな議論を呼びました。さらに、10月13日にはルフトハンザ航空機がパレスチナ解放人民戦線によってハイジャックされる事件が発生。これはドイツ国境警備隊（当時）の特殊部隊GSG-9による突入作戦（「マジックファイア作戦」）によって解決されましたが、航空機を利用したテロリズムが現実的な脅威であることを改めて浮き彫りにしました。不幸な事故としては、11月19日にポルトガルでTAP ポルトガル航空機が着陸に失敗し、131人が死亡する事故も発生しています。

航空技術の進化と新たな機体

技術開発の分野でも目覚ましい動きがありました。5月3日には、後にティルトローター機の可能性を示すことになるアメリカの実験機、ベルXV-15が最初の飛行を行いました。これは固定翼機とヘリコプターの能力を組み合わせた将来の航空機開発に向けた重要な一歩でした。軍用機では、ソビエト連邦（当時）が次世代戦闘機の開発を進め、5月20日にはSu-27の原型機「T-10」、10月6日にはMiG-29の原型機「プロダクト9」がそれぞれ初飛行を成功させました。これらの機体は、その後の東西両陣営の航空戦力バランスに影響を与えることになります。大型ヘリコプターの分野では、ソビエトのMi-26が12月14日に初飛行。これは現在も運用される世界最大級のヘリコプターです。さらに、独特の形状を持つ輸送機、アントノフAn-72も12月22日に最初の飛行を行いました。

一方で、アメリカでは超音速爆撃機B-1ランサーの開発計画が、当時のカーター大統領の決定により6月30日に中止されるという動きもありました。

既存機の分野では、ベストセラー軽飛行機であるビーチクラフト・ボナンザが、1月17日に累計生産機数10,000機という金字塔を打ち立てています。

歴史に残る飛行と挑戦

この年は、航空史におけるいくつかの特筆すべき飛行も記録されています。8月12日には、開発中のスペースシャトル・エンタープライズが大気圏内での滑空飛行試験を開始しました。ボーイング747型機を改造した母機から空中発進するこのユニークな試験は、宇宙往還機という新たな時代の幕開けを感じさせるものでした。

人間自身の力による飛行への挑戦も大きな成果を上げました。8月23日、自転車レーサーのブライアン・アレンが、ポール・マクレディが設計した人力飛行機「ゴッサマー・コンドル」を操縦し、180度の方向転換を含む2.1kmの規定飛行コースを完遂。これにより、人力飛行に対する高額賞金であるクレーマー賞を獲得し、人力飛行の歴史に名を刻みました。

さらに、ソビエトのテストパイロットであるアレクサンドル・フェドトフは、MiG-25を改造した高高度飛行記録機「Ye-266」を操縦し、8月31日に37,650メートルの高度記録を樹立しました。彼はこの功績などにより、その年のデラボー賞を受賞しています。FAIゴールド・エア・メダルはマイケル・C・マーフィーに贈られました。

商業航空においては、パンアメリカン航空が10月26日から31日にかけて、ボーイング747SPを使用し、南北両極点上空を通過する地球一周飛行を成功させ、長距離飛行能力を実証しました。また、新たな航空会社として、ケニア航空が1月22日に設立されています。日本の国内航空路線としては、10月1日に日本内外航空が種子島空港と屋久島空港を結ぶ定期便の運航を開始しました。

宇宙開発では、8月20日に探査機ボイジャー2号が打ち上げられ、太陽系外縁部の探査という壮大な旅に出発しました。11月23日には気象衛星Meteosat-1も打ち上げられています。

1977年は、史上最悪の航空事故という暗い出来事があった一方で、人力飛行の金字塔、スペースシャトルの試験、そして様々な新しい航空機や宇宙探査機の誕生が見られた、航空史において多角的な側面を持つ一年と言えるでしょう。

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