1979年の大韓民国

激動の年、1979年

1979年の大韓民国は、その後の韓国史に決定的な影響を与えることとなる、極めて激動的な出来事が相次いだ年として記憶されています。長きにわたって国政を率いた朴正煕大統領の体制が崩壊し、新たな権力構造が台頭するという、まさに歴史の転換点となった一年でした。

政情不安の兆候

年が明けてからも、韓国社会では政権に対する様々な不満や批判がくすぶっていました。特に夏頃からは、そうした動きが表面化し始めます。8月9日には、女性労働者らが主導したYH貿易会社の労働争議が発生。これは劣悪な労働環境に対する正当な要求でしたが、当局によって強硬に鎮圧され、その過程で死傷者も発生しました。このYH事件は、朴正煕政権の強権的な体質を改めて浮き彫りにし、反体制的な動きをさらに加速させる一因となりました。

野党指導者の追放

YH事件の波紋が広がる中、10月4日には国会で野党新民党の金泳三総裁に対する議員職除名決議が強行採決されるという前代未聞の事態が発生します。これは、政権に対して批判的な姿勢を崩さない野党指導者を政治の場から排除しようとする露骨な弾圧であり、民主主義への挑戦とみなされました。この除名波動は国内外から強い批判を浴び、政権への反発を一層高める結果となりました。

同時期、10月7日には、かつて韓国中央情報部（KCIA）の部長を務め、朴政権の暗部を知る人物であった金炯旭氏がフランスのパリで失踪するという不可解な事件も発生しています。その後の彼の消息は不明であり、様々な憶測を呼びました。

朴正煕大統領の暗殺

そして1979年最大の出来事は、10月26日に発生しました。この日、朴正煕大統領がソウル市内の安全家屋内で行われた夕食会の最中に、KCIA部長である金載圭によって射殺されたのです。朴大統領は1961年の軍事クーデター以降、長期にわたり韓国を統治してきましたが、その命は腹心によって突然絶たれることとなりました。

この暗殺事件は韓国社会に計り知れない衝撃を与え、18年におよぶ朴正煕体制は文字通り一夜にして崩壊しました。大統領の死去により、韓国政治はかつてないほどの政治的空白と混乱に直面することとなります。

新たな権力の台頭：粛軍クーデター

朴正煕大統領の暗殺後、政権は一時的に崔圭夏大統領代理（後に大統領に昇格）を中心とする過渡期を迎えますが、権力中枢では激しい動きが起こっていました。特に軍内部では、主導権を巡る争いが表面化します。

政治的な不安定さが続く中、12月12日には、陸軍保安司令官であった全斗煥少将を中心とする新軍部勢力が、陸軍参謀総長である鄭昇和を逮捕し、軍の実権を掌握するという事態が発生しました。これが、後に「12・12粛軍クーデター」と呼ばれる出来事です。全斗煥勢力は強引な手段で軍の主要ポストを掌握し、このクーデターを機に政治への介入を本格化させていきます。この出来事は、朴正煕体制崩壊後の権力構造を決定づけ、その後の韓国の政治進路を大きく左右することとなりました。

歴史の転換点として

1979年は、このように朴正煕大統領の暗殺による維新体制の終焉という歴史的な出来事と、それに続く軍部による実権掌握という新たな権力構造の構築が同時に進行した年でした。労働争議、野党弾圧、暗殺、そしてクーデターと、立て続けに発生した劇的な出来事は、民主化を求める人々の願いを一時的に圧殺しつつも、後の韓国社会が直面する課題を浮き彫りにしました。この年の出来事は、現代韓国の歩みを理解する上で欠かすことのできない重要な節目となっています。

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