1981年イギリス国籍法

1981年イギリス国籍法：現代イギリス国籍制度の礎

1981年イギリス国籍法は、1983年1月1日に施行されたイギリスの法律です。1948年国籍法を改正する形で制定され、それまで曖昧だったイギリス国籍の定義や取得条件を明確化しました。この法律は、単なる法改正ではなく、植民地時代からの名残を残す複雑な国籍制度から、現代的な国籍制度への重要な転換点となりました。

法改正の背景

1970年代、イギリス政府は1948年国籍法の見直しに着手します。ジェームズ・キャラハン労働党政権下では、国籍法改革の選択肢を提示するグリーンペーパーが発表されました。その後、保守党政権下で、より具体的な内容を盛り込んだホワイトペーパーが公表され、これが1981年イギリス国籍法制定の基礎となりました。与野党の合意のもと成立したこの法律は、イギリス社会に大きな影響を与えました。

主要な内容：国籍区分の変更と出生地主義の修正

この法律の大きな変更点は、国籍区分の見直しと、出生地主義の修正です。

まず、従来の「連合王国及び植民地市民」という曖昧な区分を廃止し、「イギリス市民」、「イギリス属領市民（後にイギリス海外領土市民に改称）」、「イギリス海外市民」の3種類に分類しました。この変更により、イギリス国籍を持つ者であっても、居住権の有無が明確に区別されるようになりました。イギリス市民は連合王国への居住権を自動的に有する一方、イギリス属領市民やイギリス海外市民は居住権を有するとは限りません。

次に、出生地主義の見直しです。従来はイギリス領内で生まれた者はほぼ自動的にイギリス国籍を取得できましたが、1981年イギリス国籍法では、少なくとも片親がイギリス市民またはイギリス属領市民であるか、イギリス領内に永住権を持つ場合にのみ、出生による国籍取得を認めました。この変更によって、イギリス領内で生まれた全ての人々が自動的にイギリス国籍を取得できなくなりました。ただし、イギリス永住権を持つ者の子供でイギリスで生まれた場合などは、引き続きイギリス国籍が認められました。この点については後述する批判にも繋がっています。

1971年移民法との関係

1981年イギリス国籍法は、1971年移民法と密接に関連しています。1983年1月1日時点でイギリス市民となるには、1982年12月31日時点で「連合王国及び植民地市民」であり、かつ1971年移民法に基づく居住権を有している必要がありました。さらに、1971年移民法における居住権に関する条項も修正され、祖父母の出身地に基づく居住権の取得に関する規定が明確化されました。

その他の変更点

この法律では、「イギリス臣民」という区分が、1949年以前のイギリス領インドやアイルランドとの関連を持つ者に限定されるようになり、「イギリス連邦市民」という新たな区分が導入されました。「王領植民地」は「イギリス属領（後にイギリス海外領土）」に改称されました。また、結婚を理由としたイギリス国籍取得は認められなくなり、父母の片方がイギリス市民であれば、子供もイギリス市民になるという規定が導入されました。さらに、イギリス連邦やアイルランドの市民のイギリス国籍登録制度は廃止され、帰化申請へと変更されました。

批判

この法律は、特に香港出身の華人への永住権付与を制限するため、という批判を受けました。しかし、香港出身者への永住権付与は1962年イギリス連邦移民法で既に制限されており、1981年イギリス国籍法はその点に変更を加えたわけではありません。

また、イギリスで生まれた全ての人々にイギリス国籍が自動的に付与されなくなった点も批判の対象となりました。しかし、これはイギリス永住権を持つ者の子供で、イギリスで生まれた場合を除き、実際には影響は限定的でした。さらに、無国籍者に関する条項も盛り込まれたため、批判は限定的でした。

まとめ

1981年イギリス国籍法は、イギリスの国籍制度を大きく変革した歴史的な法律です。この法律によって、イギリス国籍の定義や取得条件が明確化され、現代的な国籍制度への移行が進みました。法改正の背景や詳細な内容、そして批判的な意見まで理解することで、現代イギリス社会を理解する上で重要な一歩となります。この法律は、その後オーストラリア、アイルランド、ニュージーランドなどでも同様の法改正が行われるきっかけともなりました。

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