1984年アメリカグランプリ

1984年7月8日、アメリカ合衆国テキサス州ダラスで開催されたF1世界選手権第9戦、I Stroh's ダラスグランプリ。灼熱の太陽の下、未曽有の困難を極めたこのレースは、F1の歴史にその名を刻むこととなります。

過酷な環境とドラマチックな展開

このレースは、ダラス市が国際都市としての地位を確立するためのイベントとして計画されました。しかし、想像をはるかに超える困難が待ち受けていました。気温は華氏100度（摂氏約38度）を超える猛暑。さらに、仮設サーキットの路面は週末を通して悪化の一途を辿り、レース開催すら危ぶまれる状況でした。ロングビーチのコース設計者クリス・プークの協力を得て造られたサーキットは、狭く、曲がりくねった、挑戦的なレイアウトでした。しかし、路面状況は彼の手腕をもってしてもどうすることもできませんでした。予選開始前には路面が泡立ち始め、数周走れば路面が剥がれ落ちる始末。金曜日のプラクティス後、ドライバーたちは口々にこのサーキットの路面の荒れ具合を嘆きました。ネルソン・ピケは「猛暑の中で、コース、ドライバー、マシン、どれが最初に壊れるかだ」と語ったと伝えられています。

土曜日の予選では、気温は華氏104度（摂氏約40度）を超え、上位3台をグッドイヤータイヤ装着車が独占。グッドイヤーにとって、20年のレース活動で最も高い路面温度（華氏150度、摂氏約65.5度）を記録することとなりました。ルノーが主催した有名人レースでは、スターリング・モスが元アメリカ大統領ジミー・カーターと出会い、カーター大統領が熱心なモータースポーツファンであることが明らかになるという、興味深いエピソードもありました。

レース開始と波乱の展開

決勝レースは、アメリカ国内のテレビ中継の都合上、午前11時と、通常より3時間も早い時間帯にスタートしました。猛暑のため、ウォームアップは午前7時に予定されていましたが、路面状況の悪化により遅延、最終的にはキャンセルとなりました。ニキ・ラウダとアラン・プロストはレースボイコットを呼びかけましたが、ケケ・ロズベルグはレース開催を強く主張。「何を大騒ぎしているのか分からない。議論したところで、スタート時刻になればいつも通りレースをするだけだ。」と冷静に語ったロズベルグの言葉通り、レースは予定通りスタートしました。

ナイジェル・マンセルがポールポジションからスタートし、レース序盤をリード。しかし、この過酷な状況下で、様々なアクシデントが発生します。デレック・ワーウィックはマンセルに追いつこうとしてスピン、リタイヤ。ラウダはミスファイアに苦しみます。トップ争いは、マンセル、エリオ・デ・アンジェリス、ラウダ、ロズベルグ、プロストの5台による接戦となりました。ロズベルグは、巧みなドライビングで順位を上げていき、18周目にはデ・アンジェリスを、その後マンセルをも抜いてトップに立ちます。

しかし、レースはこれで決着とはなりませんでした。プロストがトップに立ちますが、ウォールに接触してリタイヤ。ロズベルグが再びトップに返り咲きます。猛暑の中、特製の冷却システムを装備したヘルメットとスーツにも助けられ、ロズベルグはウィリアムズにとってシーズン唯一となる勝利を掴みました。デ・アンジェリスが3位、マンセルは最終コーナーでウォールに接触、ドライブシャフトを壊してリタイヤという結果に終わりました。

過酷な条件を乗り越えた勝利

1984年ダラスグランプリは、ケケ・ロズベルグの勝利、そして過酷なレース環境が印象的なレースとなりました。猛暑と劣悪な路面、そして数々のアクシデント。まさに、生き残りが勝利を掴む過酷なサバイバルレースだったと言えるでしょう。このレースは、ホンダエンジンにとって1967年イタリアグランプリ以来の勝利でもあり、マクラーレン勢がポイントを獲得できなかった2レースのうちの1つでもありました。ダラス市を世界都市としてアピールするイベントとして計画されたものの、その過酷さゆえに、F1の歴史における特異なレースとして記憶されることとなりました。

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