1990 (曲)

COMPLEXの軌跡と激動の時代を映す名曲「1990」

1990年、世界は大きな転換期を迎えていました。ベルリンの壁崩壊、天安門事件、そして東欧革命。こうした激動の時代を背景に、COMPLEXの2枚目のシングル「1990」が誕生しました。

この曲は、表面上はラブソングとして聴こえる、美しくも切ないメロディーが特徴です。しかし、歌詞には当時の世界情勢への憂慮が込められていると解釈されています。作詞を担当した吉川晃司氏は、東欧を2週間かけて取材旅行を行い、その体験を歌詞に反映させたと伝えられています。

さらに、このシングルには、当時既に空中分解状態にあったCOMPLEXの存続を願う吉川氏の心情も投影されているという見方もあります。楽曲制作への強い思い入れは、作曲を担当した布袋寅泰氏の言葉からも伝わってきます。彼は「会心の出来」とこの曲を評したと伝えられています。

「1990」は、1990年3月14日に東芝EMIから8cmCDとカセットテープでリリースされました。シングルバージョンとアルバム『ROMANTIC 1990』に収録されたバージョンとは異なるアレンジが施されている点が特徴です。その後、1998年のベストアルバム『COMPLEX BEST』にもシングルバージョンが収録されました。

特に8cmCD盤は、特殊なパッケージ仕様で、紙ジャケットの右開き仕様や、CDを収納する紙製の袋、歌詞カードが付属していました。これは、当時のシングルCDにおける、こだわりのパッケージングの好例と言えるでしょう。

チャート成績においては、前作に続きオリコン1位を獲得。COMPLEXの人気の高さを改めて示す結果となりました。

カップリング曲である「Just Another Day」は、吉川晃司による作詞作曲です。こちらはシングル盤には収録されていませんでしたが、『COMPLEX BEST』で初めて収録されました。この曲は、吉川氏のソロ作品を彷彿とさせる、瑞々しい楽曲となっています。

そして、1990年11月8日に行われた東京ドームでのライブを最後に、COMPLEXは事実上の解散、無期限活動休止に入りました。そのため「1990」は、COMPLEX名義での最後のシングルとなりました。しかし、2011年の期間限定再結成ライブ『日本一心』では、この曲が再び演奏されました。この際には、ラストの歌詞「振り向かずに歩いていく」が「振り向かずに歩いて行こう」に変更され、再結成を反映した演出が加えられています。

「1990」は、単なるラブソングとしてだけでなく、時代の変化、そしてひとつのユニットの終わりと始まりを象徴する、COMPLEXの代表曲のひとつと言えるでしょう。楽曲の持つ複雑な魅力は、今なお多くのファンを魅了し続けています。様々な形で再リリースされ、Spotifyでもシングルバージョンとアルバムバージョンを聴くことが可能です。その音源から、当時の時代背景やアーティストの心情を読み解き、音楽史における一場面を垣間見ることができるでしょう。

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