1991年の全日本ロードレース選手権
1991年シーズン、全日本ロードレース選手権は、3月3日の鈴鹿での開幕戦を皮切りに、10月27日の筑波での最終戦まで、全17戦にわたって激しい戦いが繰り広げられました。
このシーズンの最高峰クラスは、特に最終戦までチャンピオン争いの行方が読めない白熱した展開となりました。ヤマハのエース、藤原儀彦と、前年チャンピオンの伊藤真一（ホンダ）がシリーズを牽引。伊藤はシーズン中に5回のポールポジションを獲得するなど、予選での速さを見せつけました。そこに、前年TT-F1クラス王者から転向した岩橋健一郎（ホンダ）が加わり、シーズン3勝を挙げる活躍を見せました。また、250ccで活躍してきた本間利彦（ヤマハ）がステップアップし、最終戦で表彰台を獲得するなど、新たな才能も台頭しました。
チャンピオン争いは、最終戦を迎える時点で伊藤がランキングトップ、わずか7ポイント差で藤原が追う状況でした。舞台は筑波サーキット。しかし、決勝は激しい雨に見舞われ、路面はヘビーウェットという波乱のコンディションとなりました。追う立場の藤原は、この難しい路面でペースを上げられず、優勝争いに絡むことができません。一方、このまま走り切ればタイトル獲得となる伊藤も、マシンのエンジンと電気系にトラブルが発生。コーナーからの立ち上がりで加速できない状態に陥り、ストレートで順位を落としていきます。ポイント獲得を目指して走行を続けたものの、12周目にマシン不調が原因とみられるハイサイドで転倒、リタイアを余儀なくされました。これにより、伊藤のタイトル獲得の夢は絶たれたのです。
その一方で、スタート前の時点でランキング4位につけていたピーター・ゴダード（ヤマハ）がこの荒れたレースを制し優勝。しかし、彼は自身のポイント状況を把握しておらず、チェッカーを受けた後、ピットに戻って初めて自分がチャンピオンを獲得したことを知らされたという劇的な結末でした。ゴダードの逆転チャンピオンは、全日本500ccクラス史上初となるオーストラリア人ライダーによる制覇となりました。このタイトルを足がかりに、ゴダードは翌年、世界グランプリの500ccクラスへと挑戦の舞台を移すことになります。
250ccクラスでは、前年に引き続きホンダ・レーシングの岡田忠之が圧倒的な強さを見せつけました。序盤こそ勝利に恵まれなかったものの、シーズン後半にかけて本来の調子を取り戻すと、ホンダNSR250を駆って5勝をマークし、このクラスで前人未踏の3連覇を達成しました。ライバルとなったのは、ヤマハの原田哲也とホンダの青木宣篤です。ランキング2位に入った原田は、この年導入されたヤマハTZMのセッティングに苦労し、満足なレースができないこともあったと後に語っています。一方、ランキング3位の青木は、シーズン中に3勝を挙げ、4回のポールポジションを獲得するなど、随所で岡田を脅かす存在となりました。特にレース終盤での岡田とのブレーキング競争で勝利し優勝するなど、印象的な走りを見せています。
125ccクラスでは、最終戦を前にベテランの島正人がポイントリーダーとして初のタイトル獲得に王手をかけていました。しかし、最終戦の予選中に転倒し、左手首を骨折。無念の決勝欠場となり、タイトル獲得のチャンスを逃してしまいました。代わって初の全日本タイトルを獲得したのは、前年ランキング3位だった小野真央（ホンダ）でした。彼はシーズン後半にA級初優勝を遂げ、「チャンピオンが視野に入った」と語るなど勢いに乗り、見事に初戴冠を果たしました。
TT F1クラスでは、シーズン序盤をHRCのダリル・ビーティーが連勝でリードしました。しかし、ホンダRVF750を駆る宮崎祥司が第3戦で優勝して以降追走体制に入ります。HRCの方針により、ビーティーが夏の鈴鹿8時間耐久レース終了後に500ccクラスへスイッチしたため、宮崎がシリーズをリードすることになりました。宮崎はその後も安定して4位以内に入り続けた結果、1988年以来、3年ぶり2度目のチャンピオンを獲得しました。このクラスでは、宗和孝宏（カワサキ）や永井康友（ヤマハ）といった若手ライダーがA級初優勝を飾るなど、世代交代の波も感じられました。
TT F3クラスは、前年から2ストローク車両が別カテゴリーに移され、4ストローク車両のみでの開催となりました。国内A級と国際A級が混走する形式でエントリー台数自体は多かったものの、国際A級ライダーの減少が進み、この年が全日本格式での最後の開催となりました。全5戦で行われたシリーズを制し、最後の国際A級TT F3王者となったのは、全戦でポイントを獲得した高橋勝義（ヤマハ）でした。茨木繁や加藤義昌（ともにSP忠男レーシング）も勝利を挙げる速さを見せましたが、ノーポイントのレースがあったことが響き、それぞれランキング2位、3位となりました。
1991年シーズンの終了後、日本のロードレース界に大きなニュースが駆け巡りました。全日本500ccでの3連覇や世界グランプリでの優勝、そして鈴鹿8耐制覇など、一時代を築いたヤマハのエース、平忠彦が現役を引退することが発表されたのです。平は講演会などで引退の可能性に言及しており、年末にはそのような報道も出ていましたが、年が明けて正式に引退が発表され、多くのファンに惜しまれました。
こうして、1991年の全日本ロードレース選手権シーズンは、各クラスで様々なドラマと新たな才能の台頭、そしてレジェンドの引退という出来事とともに幕を閉じたのです。
500ccクラス：最終戦の大波乱
このシーズンの最高峰クラスは、特に最終戦までチャンピオン争いの行方が読めない白熱した展開となりました。ヤマハのエース、藤原儀彦と、前年チャンピオンの伊藤真一（ホンダ）がシリーズを牽引。伊藤はシーズン中に5回のポールポジションを獲得するなど、予選での速さを見せつけました。そこに、前年TT-F1クラス王者から転向した岩橋健一郎（ホンダ）が加わり、シーズン3勝を挙げる活躍を見せました。また、250ccで活躍してきた本間利彦（ヤマハ）がステップアップし、最終戦で表彰台を獲得するなど、新たな才能も台頭しました。
チャンピオン争いは、最終戦を迎える時点で伊藤がランキングトップ、わずか7ポイント差で藤原が追う状況でした。舞台は筑波サーキット。しかし、決勝は激しい雨に見舞われ、路面はヘビーウェットという波乱のコンディションとなりました。追う立場の藤原は、この難しい路面でペースを上げられず、優勝争いに絡むことができません。一方、このまま走り切ればタイトル獲得となる伊藤も、マシンのエンジンと電気系にトラブルが発生。コーナーからの立ち上がりで加速できない状態に陥り、ストレートで順位を落としていきます。ポイント獲得を目指して走行を続けたものの、12周目にマシン不調が原因とみられるハイサイドで転倒、リタイアを余儀なくされました。これにより、伊藤のタイトル獲得の夢は絶たれたのです。
その一方で、スタート前の時点でランキング4位につけていたピーター・ゴダード（ヤマハ）がこの荒れたレースを制し優勝。しかし、彼は自身のポイント状況を把握しておらず、チェッカーを受けた後、ピットに戻って初めて自分がチャンピオンを獲得したことを知らされたという劇的な結末でした。ゴダードの逆転チャンピオンは、全日本500ccクラス史上初となるオーストラリア人ライダーによる制覇となりました。このタイトルを足がかりに、ゴダードは翌年、世界グランプリの500ccクラスへと挑戦の舞台を移すことになります。
250ccクラス：岡田の盤石
250ccクラスでは、前年に引き続きホンダ・レーシングの岡田忠之が圧倒的な強さを見せつけました。序盤こそ勝利に恵まれなかったものの、シーズン後半にかけて本来の調子を取り戻すと、ホンダNSR250を駆って5勝をマークし、このクラスで前人未踏の3連覇を達成しました。ライバルとなったのは、ヤマハの原田哲也とホンダの青木宣篤です。ランキング2位に入った原田は、この年導入されたヤマハTZMのセッティングに苦労し、満足なレースができないこともあったと後に語っています。一方、ランキング3位の青木は、シーズン中に3勝を挙げ、4回のポールポジションを獲得するなど、随所で岡田を脅かす存在となりました。特にレース終盤での岡田とのブレーキング競争で勝利し優勝するなど、印象的な走りを見せています。
125ccクラス：新王者の誕生
125ccクラスでは、最終戦を前にベテランの島正人がポイントリーダーとして初のタイトル獲得に王手をかけていました。しかし、最終戦の予選中に転倒し、左手首を骨折。無念の決勝欠場となり、タイトル獲得のチャンスを逃してしまいました。代わって初の全日本タイトルを獲得したのは、前年ランキング3位だった小野真央（ホンダ）でした。彼はシーズン後半にA級初優勝を遂げ、「チャンピオンが視野に入った」と語るなど勢いに乗り、見事に初戴冠を果たしました。
TT F1クラス：宮崎の安定感
TT F1クラスでは、シーズン序盤をHRCのダリル・ビーティーが連勝でリードしました。しかし、ホンダRVF750を駆る宮崎祥司が第3戦で優勝して以降追走体制に入ります。HRCの方針により、ビーティーが夏の鈴鹿8時間耐久レース終了後に500ccクラスへスイッチしたため、宮崎がシリーズをリードすることになりました。宮崎はその後も安定して4位以内に入り続けた結果、1988年以来、3年ぶり2度目のチャンピオンを獲得しました。このクラスでは、宗和孝宏（カワサキ）や永井康友（ヤマハ）といった若手ライダーがA級初優勝を飾るなど、世代交代の波も感じられました。
TT F3クラス：最後のシーズン
TT F3クラスは、前年から2ストローク車両が別カテゴリーに移され、4ストローク車両のみでの開催となりました。国内A級と国際A級が混走する形式でエントリー台数自体は多かったものの、国際A級ライダーの減少が進み、この年が全日本格式での最後の開催となりました。全5戦で行われたシリーズを制し、最後の国際A級TT F3王者となったのは、全戦でポイントを獲得した高橋勝義（ヤマハ）でした。茨木繁や加藤義昌（ともにSP忠男レーシング）も勝利を挙げる速さを見せましたが、ノーポイントのレースがあったことが響き、それぞれランキング2位、3位となりました。
シーズンオフの話題
1991年シーズンの終了後、日本のロードレース界に大きなニュースが駆け巡りました。全日本500ccでの3連覇や世界グランプリでの優勝、そして鈴鹿8耐制覇など、一時代を築いたヤマハのエース、平忠彦が現役を引退することが発表されたのです。平は講演会などで引退の可能性に言及しており、年末にはそのような報道も出ていましたが、年が明けて正式に引退が発表され、多くのファンに惜しまれました。
こうして、1991年の全日本ロードレース選手権シーズンは、各クラスで様々なドラマと新たな才能の台頭、そしてレジェンドの引退という出来事とともに幕を閉じたのです。
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