1992年のロードレース世界選手権

1992年のFIMロードレース世界選手権は、第44回大会として開催されました。前年までの15戦から2戦減少し、全13戦で行われた点が特徴です。アメリカ、チェコスロバキア、ユーゴスラビア、オーストリアのグランプリがカレンダーから外れた一方、新たに南アフリカグランプリが加わりました。

このシーズンは、500ccクラスの活性化が大きな焦点となりました。長らく課題とされてきたエントリー台数の減少に対し、ヤマハはヨーロッパの有力コンストラクターへの1990年型YZR500エンジンの販売と車体情報の公開という画期的な対策を打ち出しました。これにより、ROCやハリスといったヨーロッパのフレームビルダーがヤマハのエンジンを搭載したマシンを製作、500ccクラスへの参戦が促進され、活気を取り戻すことに貢献しました。また、ポイントシステムも変更され、上位15位までに入賞資格があったのが上位10位までとなりました。さらに、ミシュランは供給先を拡大し、ホンダ、スズキ、ヤマハの各ワークスチームにタイヤを供給するようになりました。

技術面では、ホンダが開発した「ビッグバン」エンジンが大きな話題となりました。各気筒の点火タイミングを不等間隔にするこのエンジンは、2ストローク500ccマシンのピーキーなパワーを制御し、トラクション性能を向上させる画期的なものでした。このエンジンはホンダにシーズン序盤から中盤にかけて圧倒的なアドバンテージをもたらし、他のメーカーも追随する形となりました。ヤマハも第9戦で同様のエンジンを投入し、スズキもシーズン中盤に実用化しました。この「ビッグバン」のコンセプトは、今日の4ストロークMotoGPマシンにも受け継がれています。

ライダーたちの活躍もこのシーズンの見どころでした。ウェイン・レイニーは、コースの安全性向上を目指すライダー団体「International Motorcycle Racers' Association (IMRA)」を設立しました。しかし、皮肉にもこのシーズンは多くのライダーが怪我に苦しみました。特に、ミック・ドゥーハンは、ビッグバンエンジンを搭載したNSR500でシーズン前半7戦中5勝と圧倒的な強さを見せていましたが、ダッチTT予選でクラッシュ、足を骨折する重傷を負い、タイトル争いから脱落してしまいました。レイニー自身も、前年の負傷が完治しておらず、ドイツGPでのクラッシュによりダッチTTを欠場するなど、万全の状態でシーズンを戦うことができませんでした。ケビン・シュワンツも怪我に苦しみ、イタリアGPでの1勝にとどまりました。ワイン・ガードナーも、日本GPとドイツGPでのクラッシュにより前半6戦ノーポイントと苦戦しました。こうした負傷者が続出する中で、エディ・ローソンがハンガリーGPでカジバに初優勝をもたらし、ルーキーのアレックス・クリビーレがアッセンで500ccクラス初優勝を飾るなど、明るい話題もありました。最終的に、レイニーがドゥーハンを逆転し、3年連続チャンピオンを獲得しました。

このシーズンは、レジェンドライダーたちの引退も大きな出来事でした。エディ・ローソンは、カジバ移籍時に表明していた通り、このシーズン限りで引退しました。ワイン・ガードナーもイギリスGPで今シーズン限りでの引退を表明し、優勝という形でそのキャリアに幕を閉じました。

250ccクラスでは、ルカ・カダローラが2年連続チャンピオンを獲得しました。一方、125ccクラスでは、アレッサンドロ・グラミーニがアプリリアに初タイトルをもたらしました。これらのクラスでも、若手ライダーの台頭が感じられるシーズンとなりました。

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