1992年の日本の女性史

1992年：日本の女性を取り巻く変化と新たな動き

1992年（平成4年）は、日本の女性たちが社会の様々な分野で存在感を示し、旧来の慣習や制度に変化の兆しが見え始めた年でした。この年には、女性の働き方、権利、国際的な問題、そして文化や美容といった多岐にわたる出来事が起こりました。

働く女性の環境改善と権利の主張

特に注目すべきは、働く女性を取り巻く環境の変化です。この年4月1日には育児休業法が施行され、労働者が育児のために休業する権利が法的に認められました。施行後最初の数ヶ月で、労働組合の約3割が育児休業の取得者を出し、合計800人以上が制度を利用しましたが、そのうち男性はわずか15人にとどまるなど、男女間の取得率に大きな差が見られました。しかし、法整備が進んだことは、働く親、特に女性の負担軽減に向けた第一歩となりました。

また、長年問題視されてきた職場でのセクシュアルハラスメントに対する認識も高まりました。1989年に提起された日本初のセクハラ裁判、通称「福岡セクシュアルハラスメント事件」では、1992年 4月16日に原告女性の全面勝訴判決が下されました。福岡地方裁判所は、上司によるセクハラ行為とその行為に対する会社の責任を明確に認め、慰謝料の支払いを命じました。被告側が控訴しなかったことで判決が確定し、これはセクハラに対する司法判断の重要な先例となり、多くの女性が声を上げる勇気を持つきっかけを与えました。

さらに、女性の活躍の場は従来男性が中心だった分野にも広がりを見せました。4月5日には防衛大学校本科に初の女性入学者を迎え入れ、12月10日には大阪府警察が全国で初めて女性のみで構成される機動隊を関西国際空港に配備するなど、公的な組織でも女性の登用が進められました。警察組織内では、自動車警ら隊の女性警察官が男性と同様にピストルを携帯することが認められるなど、職務内容の男女差が縮小する動きも見られました。政府レベルでも、12月の宮澤内閣改造では初の婦人問題担当大臣が設置され、女性政策推進への国の姿勢が示されました。

農業や漁業分野でも、女性の役割を見直す動きがありました。農林水産省の中長期ビジョン報告書では、農業経営における女性の役割の明確化や個としての確立が初めて政府の報告書として提言されました。企業の中には、配偶者の転勤に合わせて希望地へ転勤できる「自己都合転勤制度」（通称オシドリ転勤）を導入する例も現れ、働き方の多様化と家庭生活への配慮が進みました。

国際関係と社会問題

国際的な視点では、戦時中の従軍慰安婦問題が改めて大きく取り上げられました。1月17日、宮澤喜一首相は韓国国会でこの問題について公式に謝罪しました。7月には日本政府が旧日本軍の慰安婦問題への関与を正式に認めたものの、「強制連行」については否定的な見解を示しました。これに対し、12月25日には韓国の元従軍慰安婦らが日本政府を相手取り、山口地方裁判所に損害賠償を求める訴訟を提起するなど、問題解決に向けた動きは複雑な様相を呈しました。

また、代理出産に関する倫理的な問題も浮上しました。この年には、日本人夫婦11組がアメリカで代理母との契約を結んでいたことが報じられ、国内外での生殖医療技術の利用とその課題が社会に投げかけられました。国際的な結婚も増加の一途をたどり、全婚姻件数に占める割合は3%に達し、1970年代と比較して6倍にもなりました。外国人女性が日本で直面する困難にも目が向けられ、売春強要などから逃れるための支援施設「女性の家サーラー」が横浜に設立されました。

スポーツ、美容、文化活動

この年の夏に開催されたバルセロナオリンピックでは、日本の女性アスリートたちが素晴らしい活躍を見せました。特に、14歳の岩崎恭子選手が水泳200メートル平泳ぎで金メダルを獲得したことは日本中に明るい話題を提供し、女子マラソンでは有森裕子選手が銀メダルを獲得するなど、女性アスリートの国際舞台での躍進が続きました。スポーツ界では、ウェイトリフティングの高校選抜大会で初めて女子の部が設けられるなど、競技の機会も拡大しました。

美容や健康への関心も高まりました。カネボウから発売された落ちにくい口紅「テスティモ」や、ワコールから発売された胸元を美しく見せる「グッドアップブラ」は空前の大ヒットとなり、女性の美意識の変化を反映しました。一方で、エステティックを巡るトラブルが急増し、国民生活センターなどに寄せられた苦情件数は5年前の約3倍となる6,500件以上に上り、美容サービスに関する消費者問題が顕在化しました。経口避妊薬（ピル）については、中央薬事審議会がエイズ拡大への懸念を理由に認可を当分見送ると決定し、性に関する自己決定権と公衆衛生の間の議論が続きました。

この年、ワコールが行った20代から30代の日本人女性の体型調査では、ヒップ位置が身長のほぼ半分になるなど、体型の変化が明らかになりました。学術分野では、京都橘女子大学に女性歴史文化研究所が開設され、「女と男の関係」という視点から歴史を見直す新たな研究が始まりました。また、北京では日中の女性学者が集まり、「女性と科学技術」をテーマにしたシンポジウムが開催され、国際的な交流が進みました。

まとめ

1992年は、育児休業法の施行やセクハラ裁判の勝訴といった法制度や権利に関する前進があった一方で、従軍慰安婦問題や代理出産など、複雑で議論を呼ぶ国際的・倫理的な問題も表面化しました。スポーツでの活躍や美容への関心の高まりは、女性の社会的な存在感が増していることを示し、これらの出来事はその後の日本の女性たちの生き方や社会環境に大きな影響を与える基盤となりました。

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