1994年スペイングランプリ

1994年スペイングランプリ：安全性の課題とドラマチックな展開

1994年F1世界選手権第5戦、スペイングランプリはカタロニア・サーキットにて開催されました。このレースは、前戦モナコGPでの事故を受けてFIA（国際自動車連盟）が導入した緊急の車両規定変更が大きな影を落とした、波乱のレースとなりました。

FIAは、コーナーでの速度を落とすため、ダウンフォースを減少させる車両規定変更を発表しました。具体的には、フロントウィングの上昇、ボーテックスジェネレーターの禁止、フロントタイヤ付近のディフレクター制限、リアディフューザーの短縮などが義務化されました。しかし、発表からスペインGPまでわずか2週間という短い猶予期間であったため、各チームは慌ただしい対応を余儀なくされました。

この急な変更はかえって危険性を増大させるという懸念も出ていました。実際、ロータスのペドロ・ラミー選手は、変更後のマシンをテスト中にリアウィング脱落による大クラッシュに見舞われ、重傷を負うという痛ましい事故が発生しました。この事故を受け、ベネトンのチーム代表フラビオ・ブリアトーレはFIA会長マックス・モズレーに対して、レギュレーション変更が安全性を悪化させているという書簡を送付し、強い反発を示しました。

FIAの姿勢に反発したベネトンやマクラーレンなど9チームは、金曜日のフリー走行1回目をボイコットするという事態にまで発展しました。しかし、モズレー会長と反対派の協議の結果、レース不参加は回避されました。一方、モナコGPで新たに設立されたGPDA（グランプリ・ドライバーズ・アソシエーション）は、コース上の危険箇所の改善を要求し、高速S字セクションに仮設シケインが設置されました。

モナコGPで重傷を負ったカール・ヴェンドリンガー選手は昏睡状態が続いており、ザウバーはフレンツェン選手1台のみの参戦となりました。一方、ウィリアムズとシムテックはそれぞれクルサード選手とモンテルミーニ選手をセカンドドライバーとして起用し、ロータスは負傷したラミー選手に代えてザナルディ選手を、ジョーダンは出場停止を終えたアーバイン選手を起用しました。

予選では、シムテックのモンテルミーニ選手がクラッシュするなど、事故の不安は拭いきれませんでした。決勝レースでは、シューマッハ選手がポールポジションから独走態勢に入りましたが、ギアボックストラブルによりハッキネン選手とヒル選手に抜かれ3位に転落。しかし、シューマッハ選手は5速のみで走行しながらも驚異的なペースで追い上げを見せました。

ハッキネン選手は3回のピットストップという戦略を取りましたが、終盤にエンジントラブルでリタイア。結果、ヒル選手が今季初優勝を飾り、サンマリノGPでのセナ選手の事故死以来、低迷していたウィリアムズチームに勇気を与えました。シューマッха選手は2位となり、開幕4連勝は止まりましたが、5速しか使えない状態での粘り強い走りには多くの称賛が集まりました。3位にはブランデル選手が入り、ヤマハエンジンとティレルチームにとって最後の表彰台となりました。このレースは、安全性の問題と、ドライバーたちの高い技術と精神力がぶつかり合った、記憶に残る一戦となりました。

もう一度検索