1995年の日本の女性史

1995年（平成7年）は、日本において女性に関する多様な出来事が起こり、法制度や社会のあり方が問い直された年である。

法制度・政策の動き

この年、女性が働き続ける上で重要な法改正が行われた。6月には、育児休業や家族の介護を行う労働者の福祉に関する法律、通称育児介護休業法が成立した。これは、1992年に既に施行されていた同名の法律を大幅に見直し、特に介護休業に関する規定を新たに設けたものである。改正法により、育児休業は男女ともに取得可能となり、育児の場合は原則3ヶ月の期間が認められた。また、介護が必要な家族一人につき一度の介護休業が取得できるようになり、仕事と家庭の両立支援に向けた一歩となった。

厚生省（現厚生労働省）は、9月に低用量ピル（経口避妊薬）の解禁を決定した。これは女性の性と生殖に関する健康や自己決定権に関わる大きな変化であり、その後の避妊方法や女性の健康管理に影響を与えた。

政府は7月、任意団体として「女性のためのアジア平和国民基金」を設立した。これは、戦時中にいわゆる慰安婦とされた人々への償いを行い、女性の名誉と尊厳に関わる現代的な問題の解決を目指すものとして設立されたが、その手法や意義については設立当初から国内外で様々な議論や評価が寄せられた。

12月には、労働省（現厚生労働省）の内部組織に変化があった。それまで「婦人局」と呼ばれていた部署の名称が、「女性局」に変更されることが決定された。これは、従来の「婦人」という言葉が持つイメージからの脱却を図り、「女性」という言葉を用いることで、より幅広い女性の課題に対応していくという姿勢を示すものと言える。

社会的な課題と現実

1995年は、年初に発生した阪神・淡路大震災が、女性たちの生活や人間関係に深刻な影響を与えた年でもあった。兵庫県立女性センターへの電話相談や離婚相談が震災以前と比べて約3倍に急増したことが明らかになった。相談内容の中には、地震発生時にパートナーが家族を顧みずに自分だけ避難したことや、非常用持ち出し袋を自分自身の分しか用意していなかったことなど、非常時におけるパートナーの行動に幻滅したという女性たちの声が多数含まれていた。元々夫婦関係が円満ではなかった家庭では、震災が決定的な亀裂を生むきっかけとなったケースも多かったという。

女性に対する暴力、いわゆるDV（ドメスティック・バイオレンス）の実態も調査によって浮き彫りになった。「夫・恋人からの暴力」調査研究会が1992年の統計を分析した結果、回答者の約8割が暴力を経験しており、その被害が深刻であることが判明した。これは、DVが特定の家庭の問題ではなく、社会全体で取り組むべき課題であることを改めて示すものであった。

厚生省が実施した1993年度全国母子世帯調査の結果も公表され、母子世帯のうち離別が原因である割合が63.3%と過去最高を記録したことが明らかになった。また、母子世帯の平均年収が約215万円であり、これは一般世帯の約3分の1に過ぎないことも判明し、母子家庭が抱える経済的な厳しさが改めて示された。

妊娠・出産を巡る状況にも変化が見られた。厚生省の調査により、低体重児（出生時体重2500グラム未満）の出生割合が増加傾向にあることが判明した。1985年の5.7%から1993年には7%に増加しており、この問題への対応が求められた。また、妊婦死亡率も出生10万人あたり7.7人と、依然として高い水準にあることが示された。

女性の意識・立場の変化と新たな動き

女性たちの学歴や進路選択にも変化が見られた。この年、女子の4年制大学への進学者が、短期大学への進学者数を初めて上回った。これは、女子の高等教育における長期的な傾向の変化を示すものであり、社会進出やキャリア形成に対する女性たちの意識の変化を反映していると言える。

高齢者介護に関する意識も調査された。総理府（現内閣府）が実施した世論調査によると、高齢者本人の介護について、家族によるケアを中心としつつ外部サービスも利用する「在宅介護」を希望する人が42.6%を占めた。特に女性においては、「老後は施設に入ってもいい」と考える人が65.3%に上り、介護の負担が女性に偏りがちな現状や、施設入所を選択肢として考える現実的な意識がうかがえた。

働く女性が直面する課題に対応するための新たな動きもあった。3月18日には、女性のための、個人が加入できる初めての労働組合として「女性ユニオン東京」が誕生した。これは、働く女性からの直接的な相談を受け、個別の問題解決に向けて活動することを目指して設立された。

一方で、女子学生の就職状況は依然として厳しく、「超氷河期」とも形容される就職難が続いていた。大学進学率は上昇したものの、それが直接的に安定した雇用につながるわけではないという厳しい現実があった。

その他の出来事

福岡市で開催された1995年夏季ユニバーシアードでは、選手村において約3万個のコンドームが準備され、希望者に無料で配布された。これは、性感染症予防や安全な性行動を啓発する目的で行われたものであり、公的な場での性に関する話題への取り組みとして注目された。

9月には、沖縄で発生した米兵による少女暴行事件に対して、大規模な抗議活動が広がった。この事件は、在日米軍基地を巡る問題と女性への暴力という二重の側面から、社会に大きな衝撃を与え、沖縄県知事が米軍基地用地の強制使用のための代理署名を拒否するという政治的な動きにもつながった。

同じく9月、日本産婦人科学会倫理委員会は、生殖補助医療に関する見解を示した。非配偶者間の体外受精や代理母については倫理的に認めないとする一方、着床前診断については一定の条件下で認めるという立場を明らかにした。これは、生殖医療技術の進歩がもたらす倫理的な課題に対する専門家の見解として注目された。

女性のための情報提供や交流を目的とした公共施設も開所した。11月10日には、東京・青山に「東京ウィメンズプラザ」がオープンした。これは、女性に関する様々な情報の提供、相談窓口、学習や交流の場を提供する複合施設であり、女性支援の拠点の一つとなった。

この年には、公共施設や学校の女子トイレにおいて、使用中の音を消すための消音機器が普及し始めた。これはプライバシーへの配慮と同時に、平均で約55%の節水効果をもたらすものであり、女性の利用環境の改善と環境保護という二つの側面を持つ動きであった。

1995年は、法改正や新たな組織の設立、調査結果の公表など、女性を取り巻く様々な課題が具体的に示され、それに対する取り組みが始まった年であったと言える。震災の影響や就職難など厳しい現実も存在したが、女性たちの意識や社会的な立場の変化も進行していた。

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