2つのヴァイオリンのためのソナタ (プロコフィエフ)

セルゲイ・プロコフィエフが1932年に作曲した《2つのヴァイオリンのためのソナタ ハ長調》作品56は、ヴァイオリン二重奏という、時に制約が多いと見なされがちな編成のために書かれた重要な作品の一つです。

作曲の背景と初演

このソナタは、パリを拠点に現代室内楽の紹介を積極的に行っていた団体「トリトン」の発足を記念する演奏会のために、彼らから委嘱されて生まれました。作曲家は、夏の休暇を過ごしていた南フランスのサントロペでこの依頼を受け、作曲に取りかかりました。トリトンの発足記念演奏会は1932年12月16日にパリで開催される予定でしたが、この作品の公式な世界初演はそれより早い同年11月27日、モスクワで行われました。初演を務めたのは、当時モスクワのベートーヴェン四重奏団に所属していたドミトリー・ツィガーノフとウラディーミル・シリンスキーの両ヴァイオリニストでした。したがって、トリトンでの演奏は「西側初演」として位置づけられることになります。パリでの演奏を担当したのは、後にプロコフィエフがヴァイオリン協奏曲第2番を献呈するロベール・ソエタンと、数か月前にストラヴィンスキーが自身のヴァイオリン協奏曲を作曲したばかりのサミュエル・ドゥシュキンという、当時の著名なヴァイオリニストたちでした。

作曲の動機

プロコフィエフ自身は、1941年に出版された自叙伝の中で、この作品の着想について興味深いエピソードを記しています。彼は時として「悪い音楽を聴くことから良いアイデアが生まれることがある」と述べ、具体例として、ピアノ伴奏を欠いた、ある「不出来な」2つのヴァイオリンのための作品を耳にした経験に触れています。その体験から、一見限られた可能性しか持たないように思えるヴァイオリン二重奏という編成であっても、聴衆を10分から15分間引きつけられるような、刺激的で興味深い音楽が生み出せるのではないか、と考えたことが作曲の主要なきっかけとなったと回想しています。

楽曲の構成と特徴

作品の構成は、バロック時代の教会ソナタに倣った「緩-急-緩-急」の4つの楽章からなります。全編を通して2つの独立した声部による対位法的な書法が巧みに用いられており、ヴァイオリン二重奏という編成の特性が最大限に活かされています。

音楽的な特徴としては、初期の作品にしばしば見られるようなプロコフィエフ特有の鋭い不協和音の使用が抑えられ、比較的簡素で、より旋律線が明確な、叙情的な響きが前面に出ている点が挙げられます。これは、後のヴァイオリン・ソナタ第1番やヴァイオリン協奏曲第2番などにも通じる、より親しみやすい作風へと移行していくプロコフィエフの後年の傾向を予感させるものと言えるでしょう。

各楽章は以下の通りです。

1. Andante cantabile：ゆったりとしたテンポで、歌うような旋律が奏でられます。
2. Allegro：速いテンポの楽章。リズムや対位法的な絡みが特徴的です。
3. Commodo （quasi allegretto）：快適な、あるいは穏やかな速さで、軽やかな雰囲気を持ちます。
4. Allegro con brio：輝かしく、活気のある速い終楽章です。

全体の演奏時間は約14分程度です。

パリ初演のエピソード

パリでの西側初演が行われた1932年12月16日は、プロコフィエフにとって非常に慌ただしい夜となりました。トリトンの演奏会が、彼のバレエ作品《ドニエプルの岸辺で》の世界初演と同日に当たってしまったのです。幸い、バレエの開演時間は演奏会終了の約30分後だったため、プロコフィエフ自身を含む音楽家、評論家、作曲家たちは、ソナタの演奏が終わるやいなや、急ぎ足でパリ・オペラ座（ガルニエ宮）へと向かった、とプロコフィエフは記しています。

楽譜の出版

本作の楽譜は、作曲と同年の1932年にベルリンのロシア音楽エディション（Edition Russe de Musique）から出版されました。

もう一度検索