教会ソナタ

教会ソナタ (Sonata da chiesa)

教会ソナタは、17世紀から18世紀にかけて特に盛んになった器楽ソナタの一分類です。同時期に発展した、舞曲を中心とした軽快な内容を持つ室内ソナタ（Sonata da camera）とは対照的に、より厳格で真面目な楽想が特徴とされました。その名称から教会での演奏が主目的であったかのように受け取られがちですが、実際には教会以外の場でも広く演奏され、逆に教会ソナタと呼ばれない作品が教会で奏されることも珍しくありませんでした。また、17世紀末まではこの「教会ソナタ」という語自体が一般的ではなく、単に「ソナタ」として扱われることがほとんどでした。

特徴と歴史的背景

17世紀のカトリック教会では、ミサの特定の箇所や晩課において、声楽の代わりに器楽のソナタが演奏される習慣がありました。こうした背景のもと、世俗的な性格の強い舞曲集を主体とするソナタを「室内ソナタ」と便宜上分類したのに対し、教会での演奏に適した、あるいはより普遍的な音楽的内容を持つソナタを指して（当時はあまり使われなかった呼称ですが）「教会ソナタ」と呼ぶようになりました。

教会ソナタは、室内ソナタに比べて音楽的に奥行きが深く、フーガや対位法的な技法が多用された点が大きな特徴です。舞曲が含まれる場合もありましたが、それはごく限定的でした。楽器編成においては、教会での演奏を想定したかどうかにかかわらず、通奏低音楽器としてオルガンが最も頻繁に用いられたことが挙げられます。これに加えて、独立した旋律線を担う低音楽器（例えばヴィオローネやチェロ）のパートが存在するのが一般的でした。一方、室内ソナタでは、伴奏がなかったり、チェンバロやヴィオローネなど単一の楽器のみが通奏低音を担うことが多かったのと対照的です。

形式の確立と変遷

初期のソナタの形式は作曲家によって多様でしたが、アルカンジェロ・コレッリ（Arcangelo Corelli, 1653-1713）が教会ソナタにおいて、緩やかな導入楽章、速いフーガ楽章、叙情的な緩徐楽章、再び速い終楽章という「緩-急-緩-急」の4楽章構成を確立し、大きな影響を与えました。この形式は他の作曲家にも模倣され、1700年頃には教会ソナタの標準的な形式として広く認知されるようになります。ただし、コレッリ自身はこの構成を持つ作品を「教会ソナタ」とは明示的に呼ばず、彼自身はこれらを教会だけでなく演奏会でも演奏されることを意図していたと考えられています。コレッリはまた、室内ソナタにおける舞曲の配列順序にも一定の規範を示しました。

コレッリの代表的な教会ソナタとされる作品には、トリオ・ソナタ集の作品1や作品3、ヴァイオリン・ソナタ集作品5の前半6曲などがあります。ただし、これらの有名な作品の中でも、上述の典型的な緩-急-緩-急の4楽章形式を完全に採用しているのは約半数にとどまります。標準的な4楽章の構成では、第1楽章は荘重な遅い導入、第2楽章は活発なフーガ、第3楽章は歌謡的な性格を持つ緩徐楽章、第4楽章は模倣的な対位法を用いた快速な楽章となることが多いです。なお、作品5の一部ソナタでは、楽章が追加されて5楽章構成となっている例も見られます。後世において、この緩-急-緩-急という楽章配列自体を指して「教会ソナタ的」と表現されることもあります。

しかし、コレッリの活躍した時代にはすでに、教会ソナタの中に舞曲楽章が取り入れられたり、速い楽章におけるフーガがより自由な二部形式に置き換えられたりするなど、教会ソナタと室内ソナタの音楽的な区別は次第に曖昧になっていきました。

後世への影響と衰退

教会ソナタの形式的な特徴は、古典派時代に入っても器楽の構成、特に交響曲の初期の発展において影響を残しました。例えば、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト（Wolfgang Amadeus Mozart, 1756-1791）は、1772年から1780年にかけてザルツブルクの大司教のために17曲の教会ソナタ（主に独奏ヴァイオリンとオルガン、通奏低音のための単一楽章の作品）を作曲しています。これらが、後世にまで名を遺す「教会ソナタ」というジャンルの作品としては事実上最後期の重要な例となり、18世紀末頃には教会ソナタという分類自体が姿を消していきました。

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