2つの肖像

バルトーク：2つの肖像 作品5

ハンガリーの作曲家、バルトーク・ベーラ（1881-1945）が1907年から1908年にかけて作曲した管弦楽のための作品が『2つの肖像』作品5（Sz.37, BB.48b）です。この作品は、その名の通り、対照的な性格を持つ二つの楽章から構成されています。

作品の成り立ち

本作の源泉は、バルトークが当時まだ公開していなかった『ヴァイオリン協奏曲第1番』の第1楽章と、ピアノ曲集『14のバガテル』作品6の終曲にあります。第1曲は、未発表であったヴァイオリン協奏曲第1番の第1楽章を基に若干の手直しを加えて作られたもので、独奏ヴァイオリンが重要な役割を担います。一方、元の協奏曲の第2楽章として構想されていた部分は本作では使われず、代わりに同時期に作曲されたピアノ作品集『14のバガテル』作品6（Sz.38, BB.50）の終曲にあたる「私の恋人は踊る」が管弦楽用に編曲されて第2曲となりました。この構成の変更が、作品全体の劇的な性格的な対比を生み出しています。

楽章構成

本作は以下の二つの楽章で構成されます。

第1曲「理想的なもの」(Ideális) - アンダンテ、8分の6拍子
協奏曲楽章由来であり、独奏ヴァイオリンが主役となって叙情的で甘美な旋律を奏でる楽章です。「理想」と題されている通り、穏やかで内面的な美しさを描きます。

第2曲「醜いもの」(Torz) - プレスト、8分の3拍子
第1曲とは打って変わり、非常に活発で、どこか皮肉めいた、あるいは不気味な性格を持つ楽章です。「醜い」というタイトルに相応しく、諧謔的で歪んだ響きに満ちています。舞曲的な要素を含みつつも、それが奇妙に変形されたような音楽が展開されます。

楽器編成

この作品は、以下の楽器のために書かれています。独奏ヴァイオリンは第1曲でのみ使用されます。

独奏ヴァイオリン（第1曲のみ）
フルート 2（うち1はピッコロに持ち替え）
オーボエ 2（うち1はコーラングレに持ち替え）
クラリネット 2（バス・クラリネットおよびE♭管クラリネットに持ち替えあり）
ファゴット 2
ホルン 4
トランペット 2
トロンボーン 3
ティンパニ
打楽器（トライアングル、タムタム、小太鼓、大太鼓、シンバル）
ハープ 2
弦五部

標準的な二管編成を基本としつつも、多様な持ち替え楽器や打楽器、そして2台のハープを用いることで、二つの「肖像」それぞれの色彩豊かな描写を可能にしています。

初演と出版の経緯

作品全体としての『2つの肖像』の初演には時間を要しました。まず、第1曲のみが『肖像』という単独の題名で、1911年2月12日にブダペストにて初演されました。この時のヴァイオリン独奏はワルドゥバウエル・イムレ、指揮はクーン・ラースローが務めました。全曲版である『2つの肖像』としての公式な初演は、それから数年後の1916年4月20日に実現し、バレー・エミルがヴァイオリン独奏、シュトラッセル・イシュトヴァーンが指揮を務めました。興味深いことに、作品は初演に先立つ1914年には既に楽譜として出版されていました。

演奏時間

この作品の標準的な演奏時間は、およそ13分程度です。

『2つの肖像』は、バルトーク初期の個性が表れた作品であり、後に彼の作風に特徴的となる大胆な対比や、民俗音楽の影響を感じさせるリズム語法の一端を垣間見ることができる、重要な作品と言えるでしょう。

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