2台のピアノのための小協奏曲

ドミートリイ・ショスタコーヴィチ：2台のピアノのための小協奏曲 イ短調 作品94

ドミートリイ・ショスタコーヴィチによって1953年に書かれた「2台のピアノのための小協奏曲 イ短調 作品94」は、しばしば「2台のピアノのためのコンチェルティーノ」とも称される、彼の比較的演奏機会の少ない作品の一つです。このジャンルでは、若き日の作品である「2台のピアノのための組曲 作品6」も知られています。

作曲の背景

1950年代に入ると、ショスタコーヴィチは自身のピアニストとしての技巧に限界を感じ始めていたようです。このような状況の中、彼は自身の創作活動と並行して、当時モスクワ音楽院でピアノを学んでいた息子のマクシム・ショスタコーヴィチの音楽教育に力を注ぐようになります。本作は、有名な「交響曲第10番」の完成と同じ1953年に作曲されており、ちょうどその時期にマクシムのために書かれた作品と考えられています。

ショスタコーヴィチが息子を深く慈しんでいたことはよく知られており、このコンチェルティーノには、そうした家庭的な温かさや父子の親密な関係が反映されていると解釈されることがあります。作品全体に漂うのは、巨匠が肩の力を抜いて楽しんでいるかのような、ゆったりとして穏やかな雰囲気です。他の主要な作品群と比較すると、いかにも軽い印象を受けるかもしれませんが、それは決して内容が薄いことを意味するのではなく、機知に富んだ小品として独自の価値を放っています。この作品が持つ親しみやすさや特定のムードは、交響曲第10番に続き、交響曲第11番に至るまでの同時期の作品群にも共通して見られる傾向だと言えるでしょう。

楽曲の構成と特徴

この小協奏曲は、約10分の演奏時間を持つ単一楽章形式で書かれています。楽曲は「アダージョ－アレグレット－アダージョ－アレグロ－アダージョ－アレグレット」という構成で展開されます。

ゆっくりとしたテンポのアダージョによる序奏で開始された後、力強く感情豊かなアレグロ部分が続きます。このアレグロはソナタ形式に基づいていますが、興味深いことに、楽曲の中盤と終盤で再びアダージョの序奏が挿入され、その勢いを一時的に中断させる形をとっています。このような構成は、この時期のショスタコーヴィチ作品、例えば1954年の「祝典序曲」や他の大衆向けの作品に見られるような、ある種の「人民主義的」あるいは親しみやすい音楽語法との関連を示唆しています。また、2台のピアノという編成の可能性を最大限に引き出しつつ、シンプルながらも他に類を見ない独創的な旋律の着想が随所に散りばめられており、それがこの作品に特別な魅力を与えています。

演奏と録音の状況

ショスタコーヴィチの数ある作品の中で、この2台のピアノのための小協奏曲が演奏される機会は決して多くはありません。しかし近年、ピアノとオーケストラのための編曲版が登場するなど、新たな試みも行われています。

録音も非常に少ない状況ですが、歴史的には作曲者自身のピアノと息子のマクシムによる貴重な演奏の録音が存在します。近年の録音としては、マルタ・アルゲリッチとリーリャ・ジルベルシュテインという二人の著名なピアニストによる共演盤がリリースされ、注目を集めました。これらの録音を通じて、普段あまり演奏されないこの魅力的な小品に触れることができます。

まとめ

「2台のピアノのための小協奏曲 作品94」は、ショスタコーヴィチの壮大な交響曲やシリアスな室内楽作品とは趣を異にする、ある意味で「大家の余興」的な側面を持つ作品です。しかし、そこには息子への愛情、ピアニストとしての経験に基づいた2台ピアノの巧みな書法、そして同時期の大衆的な作風が融合しており、ショスタコーヴィチの多様な側面を示す一例として、その価値は十分に認められるべきでしょう。短時間の中に、親しみやすさと独自の創意が凝縮された、味わい深い一品と言えます。

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