2重螺旋の恋人

『2重螺旋の恋人』解説

作品概要

2017年に公開されたフランス・ベルギー合作の映画『2重螺旋の恋人』（原題：L'Amant double）は、数々のセンセーショナルな作品を手がけてきたフランソワ・オゾン監督・脚本によるエロティック・スリラー・ドラマです。アメリカの著名な作家ジョイス・キャロル・オーツの短編小説を翻案し、愛と欲望、そして人間の深層心理に潜む二重性を探求しています。主人公クロエをマリーヌ・ヴァクトが演じ、彼女の心を掻き乱す双子の精神分析医をジェレミー・レニエが一人二役で演じています。

物語

舞台はパリ。孤独を抱え、猫と暮らす25歳の女性クロエは、幼少期に空想上の双子の姉を慕っていた経験を持ちます。慢性的な腹痛に悩まされ、身体的な異常が見られないことから精神分析医を紹介された彼女は、穏やかで誠実なポール・メイエルと出会います。患者と医師として向き合ううちに二人は惹かれ合い、やがて恋人となり同棲を始めますが、クロエはポールのパスポートに記された姓が違うことに疑問を抱きます。ポールは母方の姓を名乗っていると説明しますが、ある日、勤務時間中に病院ではない場所でポールを見かけたことから、クロエの不信感は膨らみます。

ポールを見かけた建物で開業している精神分析医ルイ・ドゥロールに偽名で予約を入れたクロエは、彼の姿に衝撃を受けます。ルイはポールと瓜二つだったのです。ポールの名を出すと、ルイは自身がポールの双子の兄であることを明かします。クロエは自分がポールの恋人であることを伏せ、偽りの悩みを相談しますが、傲慢で支配的な性格のルイは彼女の嘘と、彼女が抱える性的問題をあっさりと見抜きます。混乱したクロエはその場を立ち去りますが、ポールの双子の兄であるルイに対する抑えきれない好奇心と、彼が見抜いた自身の秘密に引き寄せられるように、再びルイの診察室を訪れてしまいます。

ルイはクロエが抱える秘密が弟ポールに関わるものであり、双子という存在に強い興味を抱いていることを見抜いた上で、強引にクロエと関係を持ちます。ルイとの刺激的で官能的な関係の中で、クロエはそれまで知ることのなかった絶頂を経験します。ポールを愛しながらも、ルイとの危険な関係を深めていくクロエは、やがて妊娠の可能性に気づき、ルイとの関係を断ち切ろうとします。しかし、ルイはポールのかつての恋人サンドラのことを持ち出し、クロエをさらに混乱させます。

サンドラについて調べ始めたクロエは、サンドラがポールの恋人だったが、ルイにポールのふりをされてレイプされ、そのショックから自殺未遂を起こし廃人となった過去を知ります。ところが、ポールは夢の中で、サンドラが本当に愛していたのは兄のルイだったと告白します。現実と妄想の境界が曖昧になり、精神的に追い詰められたクロエは、ルイの診察室で対峙した双子のどちらか一方を射殺してしまうという衝撃的な行動に出ます。

病院に運び込まれたクロエは緊急手術を受けます。妊娠と思われていた腹部の症状は、実は生まれつき子宮内にあった腫瘍、具体的には彼女の双子の姉となるはずだった胎児が体内に取り込まれた「寄生性双生児」であったことが判明します。これが長年の腹痛や精神的な不安定さの原因でした。手術により全快したクロエはポールとの生活に戻りますが、鏡に映る自分と同じ姿の双子の姉の幻影に囚われます。そして、退院時に現れたクロエの母親が、ルイがクロエに贈ろうとしていたブローチを身につけているという、さらなる謎を残して物語は幕を閉じます。

キャスト

主演のマリーヌ・ヴァクトが、複雑な内面を抱える主人公クロエを繊細かつ大胆に演じています。クロエの恋人で温厚な精神分析医ポールと、その双子の兄で支配的な精神分析医ルイの二役を演じたジェレミー・レニエの演技は、対照的なキャラクターを見事に演じ分け、作品世界に深みを与えています。その他、クロエを疎ましく思う母親役をジャクリーン・ビセットが演じるなど、脇を固めるキャストも物語を彩っています。

公開と評価

本作は、世界三大映画祭の一つである第70回カンヌ国際映画祭のメインコンペティション部門に正式出品され、2017年5月26日にプレミア上映が行われました。日本では、2018年6月のフランス映画祭2018での上映を経て、同年8月4日にR18+指定作品として劇場公開されました。

批評家からの評価は概ね肯定的なもので、映画批評集積サイトのRotten Tomatoesでは批評家支持率70%（平均点6.3/10）、Metacriticでは加重平均値70/100を記録しています。特に、そのユニークで過激な描写や、古典的なエロティック・スリラーの要素にヨーロッパ的な作家性を加えた点が評価されました。受賞歴としては、ジェレミー・レニエが第8回マグリット賞の主演男優賞にノミネートされています。

まとめ

『2重螺旋の恋人』は、愛と倒錯、現実と妄想、そして自己の深淵に潜む二重性を官能的かつスリリングに描き出した作品です。フランソワ・オゾン監督の手腕によって、観る者は主人公クロエの心理と、彼女を取り巻く危険な関係に引き込まれ、予測不能な物語の展開に翻弄されることでしょう。人間の複雑さと多面性を探求する、深くも刺激的な一本と言えます。

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