2015年ミャンマー総選挙

2015年ミャンマー総選挙

2015年11月8日、ミャンマー連邦共和国において、立法府である連邦議会および地方議会の総選挙が実施されました。この選挙は、長らく軍政の影響下にあった同国が、民主化への道を歩む上で極めて重要な節目となりました。結果は、野党であった国民民主連盟（NLD）が圧倒的な勝利を収め、連邦議会の上下両院合計で定数の86パーセントを占めるという歴史的な快挙を達成しました。これにより、軍政の流れを汲む与党・連邦団結発展党（USDP）からの平和的な政権交代が実現し、NLDから正副大統領が選出されました。

NLD党首であるアウンサンスーチー氏は、当時の憲法規定により大統領に就任することができなかったため、新たに設けられた国家顧問というポストに就任しました。彼女は事実上の行政府の最高責任者として、新政権の舵取りを担うことになりました。

選挙の概要と制度

この選挙は、2008年に制定された現行憲法に基づいて行われました。連邦議会は、民族代表院（上院）と人民代表院（下院）で構成されており、さらに7つの地方域と7つの州にそれぞれ地方議会があります。これらの議会において、議席の4分の1を軍人が占める軍人枠を除く全ての議席が、完全な小選挙区制の下で争われました。

選挙制度に関しては、前年の2014年に与党USDPがNLDの優位を覆すべく、比例代表制の導入を試みる動きがありました。これに対し、NLDをはじめとする野党勢力は強く反発し、民族代表院では一度比例代表制導入の決議がなされたものの、結局、法案作成が間に合わず、両院ともに従前通り小選挙区制で選挙が実施されることとなりました。また、選挙に先立ち、当時のテインセイン大統領は不出馬の意向を表明していました。

内戦の影響も選挙に影を落としました。シャン州の一部の郡や、全国各地の約450の村落で選挙が中止されるという事態が発生しました。最終的に、91の政党が選挙に参加し、民族代表院の168議席、人民代表院の323議席、地方議会の659議席を巡り、それぞれ886人、1734人、3419人の候補者が立候補して激しい選挙戦が繰り広げられました。

選挙結果とその分析

2015年11月18日に確定した選挙結果では、NLDが国政選挙で約80パーセント、地方選挙で4分の3もの議席を獲得し、文字通りの圧勝となりました。対照的に、与党USDPは国政、地方ともに大敗を喫しました。少数民族政党の中では、ラカイン民族党（ANP）やシャン民族民主連盟（SNLD）が健闘し、一定の議席を獲得しました。

NLD勝利の最大の要因は、党首であるアウンサンスーチー氏の国内外における圧倒的な人気と求心力でした。一方、USDPはテインセイン政権下の5年間の実績を懸命に訴えましたが、過去の軍事政権時代に由来する国民の悪しきイメージを払拭できなかったこと、党組織の基盤が脆弱であったこと、そして死票が多く生じやすい小選挙区制の特徴が不利に働いたことが敗因として挙げられます。興味深いのは、得票率においては、NLDが約60パーセントであったのに対し、USDPも約30パーセントを獲得しており、議席数ほどの大きな差はついていない点です。これは、USDPが国民の3分の1程度の支持を得ていたことを示唆しています。

選挙後の政権移譲

NLD関係者や支持者の間では、1990年の総選挙でNLDが圧勝したものの、軍事政権によって結果が反故にされたという苦い経験から、今回も同様の事態になるのではないかという懸念が存在しました。しかし、選挙後、旧軍事政権の最高指導者であったタンシュエ氏がアウンサンスーチー氏との会談後、「彼女が将来の国のリーダーになることは間違いない」と発言したことで、円滑な政権移譲が確かなものとなりました。

この選挙は、ミャンマーが軍政から民主的な政権へと移行する上で、極めて重要な一歩となりました。アウンサンスーチー氏率いるNLD政権の誕生は、国内外から大きな期待を持って迎えられました。

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