2019年山梨県知事選挙

2019年山梨県知事選挙

2019年（平成31年）1月27日、山梨県知事を選出するための選挙が執行されました。これは、当時の後藤斎知事の任期満了に伴って実施されたものです。この選挙は、18歳選挙権が導入されてから山梨県で初めて実施された知事選挙であり、さらに平成生まれの候補者、そして21世紀生まれの有権者が投票可能となった初の都道府県知事選挙としても特筆されます。

これまでの山梨県知事選挙では、自由民主党（自民党）が分裂したり、一部の勢力が対立候補を支援したりする保守分裂の構図、あるいは日本共産党（共産党）を除く各党が現職や特定の候補に相乗り推薦・支持し、共産党候補と対決する「共産対非共産」といった特徴的な構図が見られました。しかし、今回の選挙では、現職の後藤氏（旧民主党系）に対し、自民党が候補者を一本化して推薦し、擁立するという対決構図となりました。これにより、与党である自民党と野党系候補がそれぞれ別の候補を推薦する形となり、同年4月の第19回統一地方選挙や7月の第25回参議院議員通常選挙の行方を占う前哨戦として、広く注目を集めました。この選挙の結果が、その後の地方選挙や国政選挙における各党の戦略に影響を与える可能性が指摘されていました。

主な争点

主要なメディアによって挙げられた主な争点は以下の通りです。

1. 県内の人口減少対策: 山梨県の人口は、2018年4月には1984年以来となる82万人を下回りました。将来的にさらに減少すると予測される中、後藤知事が前回の選挙公約で掲げた「人口100万人」の目標達成に向けた「リンケージ人口」（別荘利用者や帰郷者、旅行者など）を算入する方針と、その具体的な実現性について議論となりました。
2. リニア中央新幹線を活用した地域活性化: 2027年の開業に向けて建設が進む中央新幹線を活用した地域の活性化策について、横内県政時代の方針（商業施設抑制、公共施設特化）から後藤県政での方針（住宅・商業施設誘致、地産地消型発電設備設置、民間資本活用）への変更点、そして開業後の利用者数想定（横内県政：1.2万人程度、後藤県政：1.2万～2万人）の妥当性が問われました。
3. 後藤県政の4年間に対する評価: 後藤知事が前回公約で掲げた高等専門学校設置や重粒子線治療導入の事実上の後退と、県独自の保育料無償化上乗せ政策など、4年間の県政運営の実績と評価が争点となりました。特に、自民党山梨県連が行った県政評価で、公約達成度が低いと指摘された点も注目されました。
4. 自民党県連の候補者一本化の成否: 自民党が独自の知事候補を一本化して推薦したのは、1975年の田邊圀男氏以来、実に44年ぶりのことでした。過去、保守分裂や他の政党との相乗り、あるいは推薦見送りなどが繰り返されてきた歴史を踏まえ、今回の一本化が成功するかが焦点の一つとなりました。

選挙データと立候補者

この選挙は、2019年1月10日に告示され、同月27日に投票および即日開票が行われました。投票時間は午前8時30分から午後8時まででした。期日前投票は1月11日から26日まで実施されました。また、この知事選挙と同日には、甲府市長選挙、上野原市議会議員選挙、中央市議会議員選挙も執行されています。

立候補者は届け出順に以下の4名でした（政策詳細はアーカイブリンク）。
花田仁（日本共産党山梨県委員会委員長）
米長晴信（元参議院議員）
後藤斎（現職知事）
長崎幸太郎（元衆議院議員）

関係者の動向

各政党や団体の動きは複雑でした。自民党は当初、独自候補擁立に難航しましたが、最終的に元衆議院議員の長崎幸太郎氏を推薦することを決定しました。これは、前知事の横内正明氏が長崎氏に出馬を要請したことや、県連内部での調整、さらには衆議院議員の堀内詔子氏との和解なども影響した結果です。自民党本部は長崎氏への支援を惜しまず、幹部や多くの国会議員を山梨に派遣し、44年ぶりの一本化候補勝利に向けた挙党体制を敷きました。

公明党は、前回の知事選では後藤氏を推薦しましたが、自民党との連立関係を考慮し、今回は長崎氏を推薦しました。旧民主党の流れを汲む国民民主党と立憲民主党は、党は分かれていましたが、ともに現職の後藤氏を推薦しました。一方、共産党は独自候補として花田仁氏を擁立し、前回に続き2度目の挑戦となりました。

首長の動きも注目されました。一部の自民党系現職首長が、党推薦の意向に反して現職の後藤氏支持を表明しました。例えば、富士吉田市の堀内茂市長や、自民党県連相談役である堀内富久都留市長らが参加する有志の会などが後藤氏支援を表明しました。これに対し、甲州市長の田辺篤氏や南部町長の佐野和広氏は長崎氏の出陣式に出席するなど、対応が分かれました。

団体としては、連合山梨、山梨県教職員組合、山梨県医師会、農協、山梨県郵便局長会などが後藤氏支持を表明しました。また、富士五湖観光連盟は後藤氏への再選出馬を要請しましたが、その会長が選挙戦で長崎氏と対立していた堀内詔子氏の夫であったため、堀内一族内での対応が分かれる状況も生じました。

選挙結果と分析

投票率は57.93%となり、前回の41.85%から16.08ポイントと大幅に上昇しました。開票の結果、長崎幸太郎氏が現職の後藤斎氏らを破り、当選を果たしました。

勝敗を分けた要因として、自民党が長崎氏のために敷いた挙党体制の影響が大きかったことが挙げられます。党幹部や多数の国会議員が現地入りし、組織を固めました。一方、後藤氏は政党色を薄め、「県民党」としての戦いを展開し、立憲民主党や国民民主党の党首・幹部の応援を断る戦略をとりました。一部メディアは、政権与党が大量の国会議員を投入しながら敗北した2018年の沖縄県知事選挙との類似性を指摘しましたが、結果は対照的となりました。

支持政党別の投票動向を見ると、朝日新聞の出口調査では、長崎氏は自民党支持層の7割以上、公明党支持層の7割以上から支持を得ました。後藤氏は立憲民主党支持層の8割、国民民主党支持層の7割から支持を得たほか、自民・公明支持層の一部からも支持を得ましたが、有権者全体の半数近くを占める厚い自民党支持層の多くが長崎氏に投票したことが decisive factor となりました。無党派層では後藤氏が過半数の支持を得ましたが、長崎氏も4割近くを獲得し、差を埋めるまでには至りませんでした。興味深いのは、後藤県政を「大いに」または「ある程度」評価する層が79%に達していたにも関わらず、「大いに評価する」とした層の約半数が長崎氏に投票しており、現職を評価しつつも変化を求める有権者が少なくなかったことが示唆されます。

地域別の投票動向では、長崎氏は自身の地盤である衆議院山梨県第2区内の全市町村で後藤氏を上回る得票を得て、特に同選挙区内では40,000票以上の大差をつけました。これは、堀内詔子氏の支援も票の上積みに繋がったと考えられます。一方、後藤氏は自身の地盤である山梨県第1区内で優位に立ちましたが、長崎氏との得票差は限定的で、県内最大の票田である甲府市でも約3,000票差に留まり、第2区でつけられた大差を覆すには至りませんでした。

選挙後の動き

当選した長崎幸太郎氏は、「今からが私にとってはスタート。何よりも豊かさが実感できる山梨県。これを作っていくのが目標」と抱負を述べました。敗れた後藤斎氏は、「私の不徳のいたしたところで結果を出すことができませんでした」「県民党という部分はやはり必要だという気持ちも強く残っています」と語りました。

各メディアは選挙結果を分析し、自民党の総力戦に対する後藤陣営の準備不足や、堀内サイドの結束が勝因となったこと、後藤氏の「県民党」戦略の限界などを指摘しました。また、投票率が前回より上昇したものの、過去の現新対決の選挙と比べると低い水準に留まっていることや、10代、特に19歳の投票率が低かったことについて、大学受験シーズンとの重なりや県外転出、選挙に触れる機会の少なさなどが要因として挙げられました。

この選挙は、今後の山梨県の政治情勢に大きな影響を与える結果となりました。

（脚注、出典、関連項目、外部リンクは省略）

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