20/20

ザ・ビーチ・ボーイズ『20/20』： 個性と混沌が同居する問題作

『20/20』は、ザ・ビーチ・ボーイズが1969年に発表したアルバムです。キャピトル・レコードとの契約下でリリースされた最後のオリジナル・アルバムであり、グループの音楽的な転換期を示す作品として位置づけられています。

アルバムタイトルは、アメリカでの視力検査における「20/20」という表現に由来し、これは日本で言うところの1.0の視力に相当します。しかし、アルバムの内容は決して明瞭なものではなく、むしろ混沌とした雰囲気をまとっています。

ジャケット写真とブライアン・ウィルソンの影

ジャケット写真には、ブライアン・ウィルソンを除く5人のメンバーが写っています。しかし、ジャケットを開くと、視力検査表の陰に隠れたブライアンの姿が現れます。この構図は、当時のブライアンのグループにおける役割を象徴しているかのようです。精神的な問題を抱え、創作活動から一時的に距離を置いていたブライアンに対し、他のメンバーが主導権を握り、それぞれの個性を発揮するようになったのが本作の特徴と言えるでしょう。

多様な楽曲とメンバーの個性

アルバムには、「恋のリバイバル」や「アイ・キャン・ヒア・ミュージック」といったヒット曲も収録されていますが、全体的には実験的な要素が強く、多様な音楽性が混在しています。デニス・ウィルソンは、「ビー・ウィズ・ミー」や「オール・アイ・ウォント・トゥ・ドゥ」といった自作曲を提供し、ソングライターとしての才能を開花させました。ブルース・ジョンストンによる「ザ・ニアレスト・ファーラウェイ・プレイス」も、美しいメロディが印象的な楽曲です。

デニス・ウィルソンとチャールズ・マンソンの関係

本作の制作にあたって、最も注目を集めたのは、デニス・ウィルソンとチャールズ・マンソンの関係です。デニスは、マンソンから「Cease to Exist」という曲の権利を買い取り、歌詞を改変して「Never Learn Not to Love」として発表しました。しかし、マンソンは歌詞の変更に不満を示し、デニスに報復を示唆したとされています。その後、マンソンはシャロン・テート殺害事件の犯人として逮捕され、ビーチ・ボーイズのメンバーは恐怖を感じたと言われています。この事件は、本作に暗い影を落とし、作品の評価を複雑なものにしました。

『サンフラワー』への萌芽

『20/20』は、次作『サンフラワー』へのリハーサル的な作品と見なされることもあります。メンバーそれぞれの個性がぶつかり合い、必ずしも統一感があるとは言えないものの、その後のビーチ・ボーイズの音楽的な方向性を示す萌芽が随所に見られます。実験精神と多様な音楽性が同居した、過渡期の作品として、ビーチ・ボーイズの歴史において重要な位置を占めています。

『20/20』は、ビーチ・ボーイズの音楽的な冒険心と、メンバーそれぞれの複雑な人間関係が反映された、聴き応えのあるアルバムです。彼らの音楽の奥深さを知る上で、欠かすことのできない作品と言えるでしょう。

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