28 1/2 妄想の巨人

28 1/2|8 1_2 妄想の巨人

本作は、2010年に公開された日本のドキュメンタリー映画であり、同時にフィクションの要素をも含む異色の作品です。押井守監督が、自身が初めて脚本・演出を手がけた舞台『鉄人28号』の制作風景を追う形で撮影されました。単なる舞台裏のメイキング映像に留まらず、架空の人物や出来事を織り交ぜることで、現実と虚構が入り混じるシネマ・ヴェリテ（映画的真実）のような独特の世界観を構築しています。映画のタイトルは、イタリア映画界の巨匠フェデリコ・フェリーニ監督の代表作『8 1/2|8 1_2』へのオマージュとして付けられました。

押井監督は、本作の制作にあたり、舞台の演出を行いながら同時に映画を撮るという手法を面白い試みとして捉えていたと語っています。潤沢な予算がない中で、ほとんど即興的な感覚で撮影を進める過程そのものを楽しんでいた様子がうかがえます。主演のスチールカメラマン役を演じた奥田恵梨華は、押井作品では珍しくオーディションで選ばれており、固定された台本が存在しない中で、現場での監督の指示に従い、即興的に演技を行うという手法が採用されました。

物語は、舞台『鉄人28号』の発表会から稽古に至る過程を記録する現場付きのスチールカメラマン、小林言子の視点を通じて展開されます。彼女は撮影の合間に、謎めいた半ズボンの少年、正太郎の幻影を目撃します。そして、その正太郎を見たと言っていた舞台の演出家、押井守が突如として姿を消すという出来事が起こり、現実とも虚構ともつかない物語が進行していきます。出演者には主演の奥田恵梨華のほか、幻影の正太郎を田辺桃子、怒れるプロデューサーを須藤雅宏、制作の男を水橋研二、言子の同棲相手を柏原収史が演じています。また、劇中には石川光久、出渕裕、鈴木敏夫、三池崇史、山寺宏一など、様々な分野の著名人がコメントを寄せており、作品に多角的な視点を加えています。

舞台『鉄人28号』

本作の基となった舞台『鉄人28号』は、押井守監督が初めて脚本・演出を手がけた舞台作品として、2009年1月に東京、2月に大阪で上演されました。横山光輝の古典的名作漫画『鉄人28号』を原作としていますが、物語やテーマには押井守監督独自の世界観や哲学が色濃く反映されており、原作とは異なるアプローチで再構築されています。「純粋無垢は、悪である」「鋼鉄の巨人、お前は、正義か悪魔か。」といったキャッチコピーが、その思想的な深まりを示唆しています。舞台美術として登場する鉄人28号の巨大な模型は、膝立ちの状態で高さ7メートル、重さ800キロにも及び、2000万円以上の費用をかけて制作され、視覚的なインパクトを与えました。この舞台は、NHK BS2やBSハイビジョンでの放送を経て、映画『28 1/2|8 1_2 妄想の巨人』公開後に、期間限定で劇場公開もされています。

舞台の物語は、東京オリンピック開催を間近に控えた1964年を舞台としています。警視庁公安部の指揮下にある野犬狩り隊が、野良犬の一掃と、彼らにとって精神的な支柱である野犬「有明フェリータ」の捕獲を行います。正義を信じる少年探偵・金田正太郎は、公安部の依頼でテロリスト集団「人狼党」の掃討に協力しますが、「人狼党」のリーダーである犬走一直に拉致されてしまいます。犬走が説く自由と、科学者・敷島博士から教えられた科学的な正義という、二つの異なる価値観の間で苦悩する正太郎は、人狼党に身を置く妖艶な美女、ケツネコロッケのお銀の手引きで脱出するものの、その葛藤は続きます。そして、オリンピック開会式当日、『人狼党』の妨害によりブルーインパルスの飛行が不可能となり、代わりに鉄人28号をデモンストレーションに使用するという案が持ち上がる、という緊迫した展開を迎えます。

主要キャストには、金田正太郎とケツネコロッケのお銀の二役を南果歩が演じ、敷島博士を池田成志、犬走一直をダイアモンド✡ユカイ、大塚署長をサンプラザ中野くんが務めるなど、個性豊かな俳優陣が集結しました。舞台スタッフも、押井守監督を筆頭に、原作の横山光輝、美術の磯見俊裕、鉄人デザインの末弥純、音楽の川井憲次といった実力派が集結し、押井版『鉄人28号』の世界を具現化しました。

このように、『28 1/2|8 1_2 妄想の巨人』と舞台『鉄人28号』は、押井守監督独自の視点と実験的な手法から生まれた、メディアの枠を超えたユニークなプロジェクトであり、原作ファンのみならず、押井ワールドに触れたい人々にとっても見どころの多い作品群と言えるでしょう。

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