30メートル望遠鏡

30メートル望遠鏡：人類の宇宙への眼、マウナケア山頂に挑む

アメリカ合衆国、カナダ、中国、インド、日本の5カ国が共同で進める「30メートル望遠鏡（Thirty Meter Telescope, TMT）」計画は、ハワイ島マウナケア山頂への超大型光学赤外線望遠鏡建設を目的としています。その巨大な有効口径30メートルは、既存のケック望遠鏡の約3倍に相当し、宇宙の謎解明に大きく貢献することが期待されています。

類まれな性能：宇宙の深淵を覗く

TMTの主鏡は、492枚もの六角形の鏡を精密に組み合わせた複合鏡です。日本のオハラ社が開発したゼロ膨張ガラスを採用することで、熱による歪みを最小限に抑え、高解像度な観測を実現します。コンピュータ制御された各鏡片は、まるで一枚の巨大な鏡のように機能し、地球から約200億倍の距離にある惑星さえ識別できるほどの解像度を誇ります。

初期観測装置としては、可視光多天体分光器、近赤外線撮像分光器、近赤外線多天体分光器などが予定されており、初期宇宙、遠方銀河、太陽系外惑星の観測に威力を発揮します。また、北半球全域と南半球の8割の天体を観測可能という地理的な利点も備えています。すばる望遠鏡と比較すると、集光能力は13倍、解像度は4倍と圧倒的な性能向上を実現します。

建設計画と費用：国際協力による巨大プロジェクト

建設候補地は当初、ハワイのマウナケア山頂とチリのアンデス山脈が挙げられましたが、2009年にマウナケア山頂が最終決定されました。建設費用は18億ドル（約2030億円）にのぼり、アメリカが35.5％を負担し、日本、カナダ、中国、インドがそれぞれ約25％、17.8％、11.2％、10.5％を分担しています。

建設スケジュールと困難：先住民との対立と法廷闘争

当初は2021年度完成予定でしたが、地元住民との対立や法廷闘争により、2027年までの完成延期が予想されています。2014年には着工式が行われましたが、マウナケア山頂を神聖視するハワイ先住民からの強い反対運動が勃発し、建設はたびたび中断を余儀なくされました。

ハワイ先住民は、マウナケア山頂を宗教的に重要な場所と捉え、新たな建造物の建設に反対しています。彼らの文化と伝統、そして宗教的自由に対する懸念は、長年にわたって軽視されてきた歴史的背景と、ハワイ植民地時代の負の遺産が深く関わっています。一方、天文学者側は、マウナケアの地理的条件がTMT建設に理想的であると主張しています。代替地候補としてカナリア諸島などが挙げられていますが、マウナケアに勝る観測条件を持つ場所は他にないというのが彼らの見解です。

この問題は、科学技術の進歩と先住民の権利、文化の保護という重要な課題を浮き彫りにしています。両者の合意点を見出し、平和的な解決が求められています。

まとめ：未来への展望と課題

TMT計画は、人類の宇宙観を一変させる可能性を秘めた野心的なプロジェクトです。しかし、その実現には、科学技術的な挑戦だけでなく、文化的な理解と尊重、そして社会的な合意形成という大きな課題を乗り越える必要があります。TMTの完成は、宇宙の謎解明への一歩となるだけでなく、国際協力と文化の共存のあり方についても示唆に富むものとなるでしょう。

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