38ノース

「38ノース（38 North）」は、アメリカ合衆国を拠点とするシンクタンク、スティムソン・センターが運営するウェブサイトおよび情報分析プロジェクトです。特に、朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）の核兵器開発およびミサイル開発に関連する施設や活動について、商用衛星画像を用いた高度な分析を専門的に提供しています。その報告は、北朝鮮という閉鎖的な国家の内部動向を探る上で貴重な情報源となり、政策決定者や研究者、メディアなどによって広く参照されています。

歴史と運営体制

「38ノース」の起源は、2006年にワシントン・ポストの元記者であったドン・オーバードーファー氏が、メリーランド州ボルチモアに位置するジョンズ・ホプキンス大学ポール・H・ニッツェ高等国際関係大学院（SAIS）傘下の「米韓研究所（USKI）」内で立ち上げたプログラムに遡ります。2010年からは、北緯38度線の北側、すなわち北朝鮮に特化した情報分析サイトとして「38 North」の名称で運営を開始しました。

しかし、2018年に入り、運営資金を一部提供していた大韓民国政府系の対外経済政策研究院（KIEP）との間で、研究所の運営方法や人事に関する意見の相違が生じました。KIEP側がUSKIの所長交代や38ノースの責任者退陣を要求するなど人事介入の圧力をかけたことに対し、USKI側がこれを受け入れなかったため、KIEPは年間約1900万ドルに及ぶ資金提供を停止しました。これによりUSKIは運営が困難となり、2018年5月11日に閉鎖されました。

USKIの閉鎖後、「38ノース」は活動継続のため、2018年6月1日よりワシントンD.C.に拠点を置く無党派の政策研究機関であるスティムソン・センターの傘下に移管されました。2019年3月時点では、過去に北朝鮮との非核化交渉に関与した経験を持つアメリカ合衆国国務省の元職員、ジョエル・ウィット氏が代表を務めています。

サイトには、核科学者のシークフリート・ハッカー氏、元AP通信平壌支局長のジーン・H・リー氏、サイバーセキュリティ専門家のジェームス・アンドリュー・ルイス氏、北朝鮮の技術動向を追うウェブサイト「ノースコリアテック」創設者のマーティン・ウィリアムズ氏など、北朝鮮に関する様々な分野の著名な専門家が寄稿しています。

衛星画像分析とその成果

「38ノース」の活動の中核をなすのは、商用人工衛星から取得される高解像度画像の分析です。これにより、北朝鮮国内の軍事施設、特に核実験場やミサイル関連施設の建設状況、活動レベル、車両の動きなどを詳細に把握しようと試みています。これらの分析結果は、北朝鮮の軍事的な動きや開発状況に関する重要なインサイトを提供し、しばしばその後の出来事によって裏付けられることがあります。

いくつかの特筆すべき分析事例としては、以下のようなものがあります。

ミサイル発射地点の改修：2013年11月には、北朝鮮のミサイル発射場において、より大型のロケットに対応するための施設改修が進められている可能性を示す新たな建造物を衛星画像から特定し、その分析結果を公開しました。
潜水艦発射弾道ミサイル（SLBM）開発：2016年1月、北朝鮮が潜水艦からの弾道ミサイル水中射出実験を行ったとされる約1ヶ月後、38ノースは新浦南部の造船所を捉えた衛星画像を詳細に分析し、北朝鮮が進めるSLBM開発計画に関連する活動を報告しました。この分析で指摘された北朝鮮の能動的な開発姿勢は、その後のSLBM実験の成功によって裏付けられました。
東倉里ミサイル発射場：2016年1月下旬には、東倉里にあるミサイル発射場で低レベルながら不審な活動が観測されていることを報告しました。この報告からわずか10日後に、北朝鮮はこの発射場から人工衛星「光明星4号」を搭載したロケットを打ち上げています。
寧辺核施設：2016年4月には、寧辺の核施設にある熱源プラントから排気が確認されていることを報告しました。これは、核兵器用プルトニウムの再処理が進められている可能性を示唆するものであり、国際原子力機関（IAEA）が同様の活動を公式に認める約2ヶ月前にこの可能性を指摘しました。
* 豊渓里核実験場：2016年9月には、豊渓里にある核実験場の複数の坑道入口付近で活動が見られることを報告しました。これは、メンテナンスや小規模な掘削作業が再開された兆候であり、この報告の翌日に北朝鮮は5回目の核実験を実施しました。

これらの事例は、「38ノース」が公に入手可能な衛星画像データから北朝鮮の軍事動向を早期に察知し、その分析によって国際社会が北朝鮮の意図や能力を理解する上で重要な貢献をしていることを示しています。

意義

「38ノース」は、独自の専門的な分析能力と商用衛星画像の活用により、情報が限られる北朝鮮情勢に関する透明性を高める上で重要な役割を果たしています。その客観的な分析報告は、北朝鮮の核・ミサイル開発という国際安全保障上の喫緊の課題に対する理解を深めるために不可欠な情報源となっています。

もう一度検索