東倉里

東倉里ミサイル発射場（西海衛星発射場）

東倉里（トンチャンニ）は、朝鮮民主主義人民共和国の平安北道鉄山郡に位置する地名です。この地に、北朝鮮の重要な軍事・宇宙開発施設である「西海（ソヘ）衛星発射場」が建設されました。一般的には、所在地の名前から「東倉里発射場」として知られています。

建設の経緯と施設の特徴

北朝鮮は、それまで主に日本海側にある舞水端里（ムスダンニ）の発射場を使用して長距離ミサイルの実験を行ってきました。しかし、舞水端里の発射場は設備が古く、運用に課題があったとされます。このため、2000年代初頭に新たな発射場として東倉里での建設が始まりました。東倉里発射場は黄海（西海）側に面しており、施設規模は舞水端里の約3倍とされ、大幅な近代化が図られています。

施設には、移動可能な発射台が複数設置されているほか、高さが10階建てビルに相当する支持台、ロケットエンジンの燃焼試験棟、地上管制所などが含まれます。特に注目されるのは、液体燃料の注入プロセスです。この重要な準備作業が地下施設で全自動化されており、他国の偵察衛星による監視を回避する能力が高いと韓国軍当局は分析しています。また、施設の自動化が進んでいるため、比較的短時間のうちに連続して複数のミサイルを発射することも可能とされています。

建設費用については、韓国軍関係者の見積もりでは約4億ドルに上るとされています。2011年には、新たな発射タワーの建設が完了したとの報道もありました。

主な発射活動

東倉里発射場は、人工衛星打ち上げを名目とした長距離ロケットの発射に利用されてきました。2012年4月には、故金日成主席生誕100周年を記念して、人工衛星「光明星3号」を搭載したロケット「銀河3号」の発射を試みましたが、ロケットは打ち上げからわずか約2分後に空中分解し失敗に終わりました。北朝鮮はこの失敗を速やかに認めました。

しかし同年12月には、再び「銀河3号」を用いて人工衛星「光明星3号2号機」の打ち上げを実施し、地球周回軌道への投入に成功しました。これは北朝鮮にとって、人工衛星の軌道投入に初めて成功した事例となりました。

戦略的な利点

東倉里発射場には、従来の舞水端里発射場と比較して、いくつかの地理的・軍事的な利点があると指摘されています。

運搬・装着の効率化: 主要な核施設である寧辺から約70キロ、平壌近郊のミサイル製造工場から約200キロと比較的近距離に位置しています。これにより、長距離ミサイル本体や核弾頭の輸送時間、そして核弾頭の装着にかかる時間を大幅に短縮できます。舞水端里への輸送が数日かかっていたのに対し、東倉里へは1日での輸送が可能とされ、監視を逃れる可能性が高まります。
中国への影響: 中国との国境に近い立地（鴨緑江河口から約70キロ）は、米韓両国が発射場に対して攻撃を行う場合、航空戦力が中国の防空識別圏に接近する必要が生じ、中国の国益を侵害する懸念を生じさせます。
海上からの防御力: 水深が浅い黄海側に建設されているため、水深が深い日本海に面した舞水端里に比べ、潜水艦を含む海上戦力による攻撃を受けにくいとされます。
迎撃リスクの軽減: 東倉里から発射されたミサイルは、北朝鮮の内陸部上空を通過する間に高度を上げることができます。離陸初期の高度が低い舞水端里からの発射に比べ、日本海で待機する日米のイージス艦による迎撃ミサイル（SM-3など）による捕捉・迎撃のリスクを低減できると見られています。
* 追跡能力の確保: 北朝鮮自身のミサイル追跡能力は海上では限られています。内陸部を通過する東倉里からの発射は、国内の観測施設を利用してミサイルの追跡データを確保しやすいという利点があります。

廃棄表明と復旧の動向

2018年の米朝首脳会談後、同年8月には民間の衛星写真分析により、東倉里発射場（西海衛星発射場）の解体作業が開始されたことが確認されました。続く9月の南北首脳会談の合意文書では、「関係国の専門家の立ち会いの下で永久廃棄する」ことが明記されました。

しかし、2019年2月の米朝首脳会談が合意なく終わった直後の同年3月、衛星写真分析を行う機関から、首脳会談以前から発射施設の復旧作業が始まっていたとする分析結果が発表されました。これに対し、当時のトランプ米大統領は懸念を表明するなど、施設の動向は国際的な関心事となっています。

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