4AD

4AD (フォーエーディー)

1980年、英国にて産声を上げたインディー・レコードレーベル、それが4ADです。ベガーズ・バンケット・レコードの支援のもと、アイヴォ・ワッツ＝ラッセルとピーター・ケントによって創設されました。主にオルタナティヴ・ロックやインディー・ロックの分野で知られていますが、その音楽性は多岐にわたります。

レーベルの設立当初は「アクシス・レコード」という名称でしたが、既に同名の企業が存在することが判明し、すぐに現在の「4AD」へと改名されました。このユニークなレーベル名は、「将来を見据える」「展望」といった意味を持つ「Looking Forward」という言葉から派生して生まれたとされています。

4ADの音楽と同様に、そのヴィジュアル表現もまた、レーベルのアイデンティティを形作る上で不可欠な要素となりました。共同設立者のピーター・ケントがレーベルを離れた後、アイヴォ・ワッツ＝ラッセルは才能あるグラフィック・デザイナー、ヴォーン・オリヴァーを迎え入れます。オリヴァーは写真家のナイジェル・グリーアソンと共にデザインユニット「23エンベロップ」を結成。彼らが手がけたアルバムのアートワークは、しばしば退廃的かつ耽美的な美しさを持ち、4ADがリリースする音楽の雰囲気を完璧に捉え、視覚と聴覚が一体となった独自の美学を確立しました。

1980年代初頭、4ADはバウハウス、コクトー・ツインズ、デッド・カン・ダンスといった、ゴシックやポストパンクの要素を持つアーティストの作品を積極的にリリースし、暗く内省的なサウンドカラーを印象づけました。しかし、1980年代半ば以降は、米国出身のスローイング・ミュージズやピクシーズのようなオルタナティヴ・ロック勢に光を当てるようになり、その音楽的な焦点を広げていきます。同時に、ブルガリアの民族音楽合唱団『神秘の声 (Le Mystère des Voix Bulgares)』のような、全く異なるカテゴリーの音楽にも着手するなど、多様な才能を発掘・紹介するレーベルとしての側面も強く打ち出しました。

特に注目すべきは、1987年にA.R.ケインらが組んだユニット、M/A/R/R/Sによるシングル「パンプ・アップ・ザ・ボリューム」です。この楽曲は黎明期のアシッド・ハウスとして、また大胆なブレイクビーツのサンプリングを取り入れた革新的なサウンドとして、全英シングルチャートで首位を獲得する爆発的なヒットとなりました。これは、特定のジャンルに留まらない4ADの探求心を示す出来事と言えるでしょう。

1990年代に入ると、4ADは英国に留まらず、ロサンゼルスにもオフィスを設立するなど国際的な展開を見せます。ブリーダーズ、レッド・ハウス・ペインターズ、アンレスト、ヒズ・ネーム・イズ・アライヴといった米国アーティストの作品を成功させ、北米市場での存在感を確立しました。

レーベルの創設者であるアイヴォ・ワッツ＝ラッセルは、1999年に自身の持ち分を設立時の支援元であるベガーズ・バンケットへ売却します。これ以降、4ADはベガーズ・グループの強力な一員として、その傘下で活動を継続しています。

そして、2008年にはベガーズ・グループ全体の事業再編が行われ、古巣とも言えるベガーズ・バンケット本体、そして同じグループに属していたトゥー・ピュアといった歴史あるレーベルを吸収合併し、組織としての規模と影響力を一層拡大しています。

4ADはその長い歴史を通じて、単なるレコードレーベルの枠を超え、独自の音楽的・視覚的美学を持ったアート集団のような存在として、世界中の音楽ファンやアーティストに影響を与え続けています。その探求心と妥協のないキュレーションは、今日のインディーシーンにおいてもなお、重要な指標であり続けています。

企画盤としては、様々なアーティストが参加したプロジェクト「ディス・モータル・コイル」や、先に触れた「ブルガリアン・ヴォイス」などが特筆されます。これらの企画もまた、4ADの持つユニークな世界観を色濃く反映しています。

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