5つの前奏曲 (ヴィラ＝ロボス)

5つの前奏曲 (ヴィラ＝ロボス)

「5つの前奏曲」は、20世紀ブラジルを代表する作曲家、エイトル・ヴィラ＝ロボスが1940年に完成させたギター独奏のための作品集です。この曲集は、ヴィラ＝ロボスの膨大な作品群の中でも、彼のギター音楽における重要な位置を占めており、今日でも世界中のギタリストによって頻繁に演奏されています。

作品の背景と成立

この前奏曲集は、作曲から12年後の1952年にマックス・エシック社から出版されました。興味深いことに、ヴィラ＝ロボスは当初6曲の前奏曲を作曲したとされています。しかし、そのうちの1曲は残念ながら紛失してしまい、現在私たちが聴くことができるのは5曲のみです。ヴィラ＝ロボス自身は、失われたその6曲目が最も出来が良いと語っていたと伝えられており、その内容は謎に包まれたままです。

作品は、作曲家の愛人であったアルミンダ・ネヴェス・ダウメイダに献呈されました。初演は作曲から2年後の1942年12月11日、ウルグアイの首都モンテビデオで行われ、ギタリストのアベル・カルレバーロによって披露されました。

各曲の構成と特徴

この作品集を構成する5曲は、それぞれに異なる副題が付けられており、多様な主題と音楽的色彩を持っています。

前奏曲第1番 ホ短調

副題は「Melodia lírica（叙情的な旋律）」。テンポ指示は「Andantino espressivo（表情豊かに少しゆっくりと）」。ホ短調の哀愁を帯びた響きで、その名の通り歌心溢れる美しい旋律が特徴です。

前奏曲第2番 ホ長調

副題は「Melodia capadócia（カパドシアの旋律）」。テンポ指示は「Andantino（少しゆっくりと）」。ホ長調の明るい響きを持ち、ブラジルのポピュラー音楽であるショーロを思わせるような、リズム的で軽快な進行が用いられています。

前奏曲第3番 イ短調

副題は「Homenagem a Bach（バッハへのオマージュ）」。テンポ指示は「Andante（歩くような速さで）」。この曲は、ヴィラ＝ロボスが敬愛したヨハン・セバスチャン・バッハへの深い敬意が込められています。対位法的な要素や構成に、バッハの音楽からの影響が見られます。

前奏曲第4番 ホ短調

副題は「Homenagem ao índio brasileiro（ブラジルのインディアンへのオマージュ）」。テンポ指示は「Lento（遅く）」。再びホ短調に戻り、ブラジルの先住民族に捧げられたこの曲は、神秘的で瞑想的な雰囲気を持ちます。静かで物憂げな旋律が特徴です。

前奏曲第5番 ニ長調

副題は「Homenagem à vida social（社会生活へのオマージュ）」。テンポ指示は「Poco animato（少し活き活きと）」。ニ長調の明るい響きで、6/4拍子で書かれています。この曲は、かつてのリオ・デ・ジャネイロの上流社会で踊られていたワルツのリズムや雰囲気を想起させる、優雅で活発な音楽です。

関連作品

ヴィラ＝ロボスのギターのための主要作品としては、「5つの前奏曲」と並んで「12の練習曲」が挙げられます。これらはしばしば共に演奏会で取り上げられ、ヴィラ＝ロボスがギターという楽器の可能性を深く追求した成果を示しています。

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