5時から7時までのクレオ

『5時から7時までのクレオ』：死の影と人生の輝き

アニエス・ヴァルダ監督による1962年の映画『5時から7時までのクレオ』（フランス語: Cléo de 5 à 7）は、パリを舞台に、人気歌手クレオのある午後を描いた作品です。この映画は、午後5時から7時までのクレオのリアルタイムの生活を丹念に追いかけ、死の不安と向き合いながら、人生の価値を見出していく女性の姿を鮮やかに映し出しています。

物語の展開：時間とともに変化するクレオ

クレオは、精密検査の結果を待つ不安を抱えています。彼女はまずタロット占い師を訪ね、自分の未来を占ってもらいます。占いは、クレオの過去や現在の状況を的確に捉えつつ、病気の可能性を示唆しますが、同時に希望も与えます。しかし、占い師はクレオが去った後、同居人に「彼女は癌よ」と告げる場面は、観客に強い衝撃を与えます。

その後、クレオはマネージャー的存在であるアンジェールとカフェで落ち合い、不安な気持ちを打ち明けます。しかし、帽子店での買い物や、ラジオから流れる自身のヒット曲によって、クレオの気分は一時的に明るくなります。

恋人との短い再会、新しい曲の制作における作曲家や作詞家との共同作業など、クレオは様々な出来事を経験します。しかし、新曲の暗い旋律や歌詞は、クレオの不安を再び呼び起こし、彼女は混乱に陥ります。

友人のドロテとの再会は、クレオにとって心の支えとなります。ドロテとの会話の中で、クレオは病気への恐怖を打ち明け、無声映画を鑑賞することで一時的に不安を紛らわせます。しかし、映画館を出た後の出来事が、彼女の不安を再び掻き立てます。

その後、クレオはモンスリ公園でアントワーヌという兵士と出会います。アントワーヌとの出会いは、クレオに新たな感情を与えます。アントワーヌは、クレオの検査結果を聞くのを恐れる彼女を励まし、病院へ同行します。

病院では、担当医が既に帰宅しており、結果を聞くことはできませんでしたが、クレオとアントワーヌは病院の庭を散歩し、心を通わせる時間を共有します。そこに担当医が車で現れ、クレオは癌であるものの治療可能であることを告げられます。そして、クレオとアントワーヌは互いに愛を確かめ合うのでした。

映画のテーマ：実存主義と女性の視点

『5時から7時までのクレオ』は、実存主義的なテーマを深く探求した作品として知られています。死の不安、人生の意味、自己のアイデンティティといった普遍的な問いが、クレオの視点を通して描かれています。特に、女性の視点から見た社会や自己への認識、女性のあり方といったテーマは、この映画の大きな魅力となっています。

クレオを取り巻く登場人物たちも、それぞれに個性的な存在感を放ち、物語に深みを与えています。占い師、アンジェール、恋人、作曲家、作詞家、ドロテ、アントワーヌ、そして医師ヴァリノ。それぞれの登場人物との出会いや別れを通して、クレオは自身の内面と向き合い、成長していくのです。

映画の技術的側面

映画は16:9のビスタサイズ、モノクローム映像（タロット占いの場面のみカラー）で撮影されています。モノクローム映像の効果的な使用は、クレオの不安定な心理状態を視覚的に表現する役割を果たしています。また、音楽も重要な要素であり、ミシェル・ルグランの音楽は、映画の雰囲気を効果的に高めています。

結論

『5時から7時までのクレオ』は、死の不安と向き合いながら、人生の喜びや愛を見出す女性の物語です。そのリアルな描写、実存主義的なテーマ、そして女性の視点からの表現は、現代においても多くの観客を魅了し続けています。この映画は、単なる物語としてだけでなく、人生の意味や生き方について深く考えるきっかけを与えてくれるでしょう。

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