5時15分

ザ・フー「5時15分 (5:15)」解説

「5時15分 (5:15)」は、イギリスのロックバンド、ザ・フーが1973年に発表したアルバム『四重人格 (Quadrophenia)』に収録されている楽曲です。作詞・作曲はピート・タウンゼントが手掛けました。アルバムからの先行シングルとしてもリリースされ、イギリスのチャートで20位を記録しています。

楽曲解説

この楽曲は、ロックオペラである『四重人格』の中で重要な位置を占めています。物語の主人公である少年ジミーが、目的地であるブライトンへ向かう列車の中で様々な思いを巡らせるシーンで使用されます。若者の葛藤や社会への不満、そしてアイデンティティの探求といったテーマが、歌詞と演奏を通して表現されています。

曲の冒頭と終わりに現れるフレーズは、同じくアルバムに収録されている「カット・マイ・ヘアー」からの引用です。これにより、アルバム全体のテーマ的な繋がりを強調する役割を果たしています。

興味深いことに、「5時15分」はレコーディング当日にタウンゼントがスタジオで書き上げた楽曲であり、他の収録曲とは異なりデモテープが存在しません。即興的な要素が楽曲に独特のエネルギーを与えていると言えるでしょう。

タウンゼント自身は、この曲の歌詞について、若者の疎外感や社会への不満、そして未来への希望といった複雑な感情を表現したものであると語っています。

リリースとプロモーション

「5時15分」は、1973年10月5日にアルバムに先駆けてシングルとしてリリースされました。シングルバージョンでは、アルバムバージョンに収録されていた冒頭の波の音がカットされています。

ボーカルのロジャー・ダルトリーは、「『四重人格』からシングルカットできる曲は、実際にはこの曲しかなかった」と語っています。アメリカでは当時、「愛の支配 (Love Reign O'er Me)」と「リアル・ミー (The Real Me)」がシングルカットされました。

シングルのB面には、1970年頃に録音された「ウォーター (Water)」が収録されています。この曲は、元々5曲入りのEPとして発表される予定でしたが、このシングルで初めて日の目を見ることになりました。『四重人格』とは直接的な関連はありません。

リリース当時、バンドはBBCの音楽番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」に出演し、この曲を演奏しました。しかし、演奏中にタウンゼントがギターを破壊したり、プロデューサーに食って掛かったり、カメラに向かって中指を立てるなどの問題行動を起こし、BBCから一時的に出入り禁止処分を受けるという騒動がありました。

コンサートパフォーマンス

「5時15分」は、『四重人格』を再現するツアーはもちろんのこと、それ以外のコンサートでも頻繁に演奏される人気の高い楽曲です。ライブでは、ホーンセクションが導入されたり、ジョン・エントウィッスルのベースソロがフィーチャーされることもありました。

2012年の『四重人格』ツアーでは、すでに亡くなっていたエントウィッスルのベースソロを、過去の映像を流すことで再現するという試みが行われました。

ザ・フーの公式ライブ作品としては、『ジョイン・トゥゲザー (Join Together)』(1989年)、『ライヴ・アット・ザ・ロイヤル・アルバート・ホール (Live at the Royal Albert Hall)』(2003年)、『四重人格　ライヴ&モア (Quadrophenia Live in London)』(2014年)などに収録されています。

映画『さらば青春の光』バージョン

1979年に公開された『四重人格』の映画化作品、『さらば青春の光 (Quadrophenia)』のサウンドトラックには、この曲のリミックスバージョンが収録されました。このサウンドトラックの音楽監督を務めたエントウィッスルは、リミックスだけでなく、ベーストラックも新たに録音し直しています。

このバージョンはB面に「ぼくは一人 (My Generation)」を収録してシングルリリースされ、アメリカで45位を記録しましたが、オリジナル版とは異なりイギリスではチャートインしませんでした。

「5時15分」は、ザ・フーの代表曲の一つとして、現在も多くのファンに愛され続けています。

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