6×9=53

『6×9=53』（ロックごじゅーさん）は、シンガーソングライター KANが2016年2月3日に発表した通算16作目のオリジナルアルバムです。アップフロントワークスのzetimaレーベルからリリースされました。前作『カンチガイもハナハダしい私の人生』からおよそ6年ぶりのオリジナル作品となります。本作のタイトルは、発売時のKANの年齢である53歳にちなんでおり、「53歳のロック」というコンセプトが反映されています。アルバムタイトルの正式な読みは、フランス語で『sei per nove fa cinquantatré』（セイ・ペル・ノーヴェ・ファ・チンクワンタトレ）とされています。

このアルバムには、先行シングルとして発表されていた「Listen to the Music」と「桜ナイトフィーバー」のアルバム・バージョンを含む、全10曲が収録されています。楽曲のプロデュースはKAN自身と渡辺忠孝が共同で行い、多くの楽曲で作詞・作曲・編曲もKANが担当していますが、一部の楽曲では共同制作も行われています。

本作の大きな特色は、KANと長年にわたり親交のある多彩なミュージシャンたちが多数参加している点です。レコーディングには、スターダストレビューの根本要、SING LIKE TALKINGの佐藤竹善、塩谷哲、馬場俊英、菅原龍平、そしてTRICERATOPSのメンバーといった実力派アーティストが集結しました。さらに、Mr.Childrenの桜井和寿が作詞を提供しており、注目を集めました。

リリース形態はCDとDVDの2枚組通常盤のみです。付属のDVDには、アルバム『6×9=53』がどのように制作されたのかを追ったドキュメンタリー映像「Recording Documentary 【6×9=53が成り立つまで】」が収められています。CD発売と同時にダウンロード配信も開始され、後年にはサブスクリプション配信もスタートしました。

アルバムのアートワークは、東白英（WHITE Phat Graphics）が手がけました。ジャケット写真では、KANが和装で登場し、タイトルにかけた遊び心として69歳をイメージしたビジュアルが採用されています。

アルバムの発表後、2016年4月9日から6月12日にかけて、KANは本作を携えて全国10会場13公演を巡るライブツアー『KAN BAND LIVE TOUR 2016【ロック☆ご自由に♪】』を開催しました。また、翌年の2017年4月11日に中野サンプラザで開催された特別なライブ『芸能生活29周年記念特別感謝活動年 Final Kegimental Live ロックンロールに拿捕されて』には、本作に参加した多くのアーティストがゲストとして駆けつけ、共に収録曲などを披露しています。

収録楽曲について

CDに収められた10曲は、KANらしい音楽性と遊び心、そして円熟味を感じさせるバラエティに富んだ内容です。

特に話題となった楽曲の一つに、Mr.Childrenの桜井和寿が作詞を手がけたバラード「安息」があります。KAN自身が「大きな会場で演奏することをイメージした王道バラード」と紹介するこの曲に対し、桜井は作詞の際に「普段皆さんに見せている顔とは違う、自宅などで物静かに思慮深く考えているKANさんの姿」をイメージしたとコメントしています。KANが自身の楽曲で他者に作詞を依頼したのは、実に1988年の3rdアルバム以来、約28年ぶりでした。この曲のメロディーは2014年には存在していましたが、歌詞がなかなか完成せず、桜井に依頼したところ、わずか3日間で書き上げられたという逸話があります。また、歌唱表現についても桜井からのディレクションがあったと明かされています。「安息」は、2017年1月に大分で行われたKANの弾き語りライブに桜井がサプライズゲストとして出演した際に、二人で共演する形で披露され、ライブアルバムにも収録されています。

他の収録曲にも、ゲストアーティストとのコラボレーションが光る楽曲が多数あります。SING LIKE TALKINGの佐藤竹善とデュエットした「ポカポカの日曜日がいちばん寂しい」は、煮詰まった中年男性の心情を描いたフォークソングと評されています。また、馬場俊英とは作詞も共作し、デュエットした「ロックンロールに絆されて」は、音楽を生業とすることへの誇りと感謝の気持ちが込められた楽曲であり、KANはこの曲を「精神的な意味でのタイトル曲」と位置づけています。

TRICERATOPSの演奏が加わった「胸の谷間」は、全男性共通の夢を歌ったプログレッシブなロックテイストの楽曲です。「どんくさいほどコンサバ」はドナルド・フェイゲンを意識した楽曲で、スターダストレビューの根本要がギターで参加しています。三幸製菓のCMソングとして書き下ろされた「scene」は、Mr.Childrenやスキマスイッチの世界観も意識した「青空が見えるポップロック」で、TRICERATOPSの吉田佳史がドラムを担当しています。前作に続き中田ヤスタカの影響が見られる「ブログ! ブログ! ブログ!」は、打ち込みサウンドが中心の楽曲です。シングルとはギターソロが変更された「桜ナイトフィーバー～Album Version～」では、TRICERATOPSの和田唱がギターを演奏しています。

KAN一人で弾き語り録音された「寝てる間のLove Song」は、スティーヴィー・ワンダーのバラードをイメージした、短いながらもシンプルなラブソングです。

『6×9=53』は、KANのキャリアにおける一つの節目に制作され、多くの仲間たちと共に、等身大の「ロック」を追求した深みのある作品と言えるでしょう。

もう一度検索