6つのソナタ 作品5 (ヴィヴァルディ)

6つのソナタ 作品5

6つのソナタ 作品5（6 sonate, op.5）は、イタリアの作曲家アントニオ・ヴィヴァルディが世に送り出した通算5作目にあたる出版曲集です。この作品集は1716年頃、当時音楽出版の中心地の一つであったオランダの首都アムステルダムにあるエティエンヌ・ロジェの出版社から刊行されました。特筆すべきは、ヴィヴァルディの出版作品集としては初めて、特定の人物への献呈が記されていない点です。

概説

この作品集は、表紙の記載からも明らかなように、先行する作品2『12のヴァイオリンソナタ』の続編として位置づけられています。そのため、各曲には作品2からの通し番号を引き継ぎ、13番から18番までの番号が付されています。

出版実務は、エティエンヌ・ロジェの娘であるジャンヌ・ロジェが担当しました。ジャンヌは1716年から父の後継者として、本作の他、作品6『6つのヴァイオリン協奏曲』、作品7『12の協奏曲』といったヴィヴァルディの重要な作品集の出版を担いました。しかし、会社としての名義は、1722年にエティエンヌが死去するまでは父の名前が使われ続けました。

作品に献呈先が記されないケースは、新進作曲家が自己負担で作品を売り込むために行う場合と、既に名声を得ている作曲家に対し、出版社が商業的な成功を見込んで費用を負担する場合とがあります。ヴィヴァルディの場合は、当時既に著名な存在であったことから、出版社側の判断で刊行された後者の例であると考えられています。

ジャンヌ・ロジェは父の死後まもなくこの世を去ったため、ヴィヴァルディのその後の作品、例えば作品8『和声と創意の試み』以降の出版は、エティエンヌの娘婿にあたるシャルル＝ミシェル・ル・セーヌが引き継ぐことになりました。

作品内容

曲集の正式な表題は「6つのソナタ、4曲のソロ・ヴァイオリンのためと、2曲の2つのヴァイオリンのための」と記されており、その構成は表題通り、ソロ・ヴァイオリンソナタが4曲と、トリオ・ソナタ（2つのヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ）が2曲という内訳になっています。

4曲のソロ・ソナタは、前作の作品2『12のヴァイオリンソナタ』と比較すると、より慎重かつ堅実な音楽構成を示しています。これは、当時の北ヨーロッパにおける音楽的な保守傾向を意識した作風と見られています。これらのソロ・ソナタはすべて二部形式で書かれており、一部の楽章では、冒頭に提示された主題が楽章の後半部で再び現れる手法が用いられています。この技法は、後に皇帝カール6世に献呈された作品9『ラ・チェトラ』にも見られるものであり、後の時代の古典派で確立される「ソナタ形式」の萌芽とも言える特徴を示しています。

一方、2曲のトリオ・ソナタもまた、控えめで落ち着いた性格を持っています。ヴィヴァルディの円熟した作曲技法によって淀みなく滑らかに作曲されており、初期の作品集である作品1『トリオ・ソナタ集』に見られたような、やや未熟な部分や実験的な要素は影を潜め、技術的な安定感が増しています。

曲目

以下に、収録されている全6曲の情報を示します。

第1番：ヴァイオリン・ソナタ ホ長調 RV 18
楽章構成：Preludio, Corrente, Sarabanda, Giga
第2番：ヴァイオリン・ソナタ イ長調 RV 30
楽章構成：Preludio, Corrente, Gavotta
第3番：ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調 RV 33
楽章構成：Preludio, Alllemanda, Corrente, Gavotta
第4番：ヴァイオリン・ソナタ ロ短調 RV 35
楽章構成：Preludio, Allemanda, Corrente
第5番：トリオ・ソナタ 変ロ長調 RV 76
楽章構成：Preludio, Allemanda, Corrente
第6番：トリオ・ソナタ ト短調 RV 72
楽章構成：Preludio, Allemanda, Air, Minuetto

この作品集は、ヴィヴァルディが既に商業的な成功を収め、出版社が積極的に彼の作品を刊行するようになった時期の重要な例であり、彼のソナタ作品の発展における過渡期を示すものと言えるでしょう。

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