6次産業

6次産業（ろくじさんぎょう）

6次産業とは、従来、農産物や水産物の生産に特化していた第一次産業の担い手が、自ら生産したものを加工（第二次産業）、さらには消費者に直接販売したり流通を担ったりする（第三次産業）といった、事業の多角化を進める経営のあり方を指します。

この言葉は、農業経済学者の今村奈良臣氏によって提唱された造語です。その名称は、第一次産業の「1」、第二次産業の「2」、第三次産業の「3」を全て足し合わせると「6」になることに由来しており、単に6番目の産業を指すわけではありません。このような多角的な事業展開、すなわち第一次産業に第二次、第三次産業の機能を統合することを「6次産業化」と呼びます。

目的と背景

本来、第一次産業は農畜産物や水産物の生産を主な役割としていますが、生産物の価格変動や市場動向に収益が左右されやすく、農業経営体の所得が低迷しやすいという課題を抱えています。6次産業化は、こうした課題を克服し、農業経営を安定・向上させることを目的としています。

具体的には、これまで食品加工業者や流通業者、小売業者が得ていた加工賃や流通マージンといった収益を、生産者である農業者自身が得られるようにすることで、経営全体の売上や利益を高めます。これにより、農業所得の向上を図るとともに、生産だけに依存しない安定した収益構造を構築することが目指されます。

推進される取り組み

6次産業化においては、生産物の価値を高める様々な取り組みが推奨されています。例えば、

生産物の特徴を活かした新たな加工品の開発・製造（例：農産物を使ったジャム、惣菜、スイーツなど）
自社商品のブランド化やパッケージデザインの工夫
直売所やオンラインストアを通じた消費者への直接販売
農園レストランやカフェの運営
観光農園と組み合わせた体験型サービス

などが挙げられます。これらの活動を通じて、生産者は単なる「生産者」から「製造者」「販売者」「サービス提供者」へと役割を広げ、収益源を多様化させることが期待されます。

類似概念との比較と批判

第一次産業に付加価値を付けて高度化を目指すという点では、生産と一部の加工を結びつける「1.5次産業化」に類似する側面もあります。しかし、6次産業化は、加工だけでなく、流通や販売といったより広い範囲の活動を取り込み、これらを複合的に展開していくという視点がより明確である点で異なります。

農業経営体の経営多角化を促進するものとして国なども支援をしていますが、一方で、農業所得の構造的な問題を、個々の農業従事者の努力や多角化に委ねる側面があることから、「政策放棄」であるといった批判的な見方も一部には存在します。

6次産業化は、第一次産業が自らの可能性を広げ、持続可能な経営を目指すための重要な戦略の一つとして、注目を集めています。関連施策として、「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律（通称：6次産業化・地域活性化法）」に基づく支援などが行われています。

関連項目

農林漁業成長産業化支援機構
第一次産業 / 第二次産業 / 第三次産業
直販
観光農園
A級グルメ・B級グルメ

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