87分署シリーズ

87分署シリーズ：エド・マクベインが生み出した警察小説の金字塔

エド・マクベイン（本名：エヴァン・ハンター）が手掛けた「87分署シリーズ」は、1956年の第1作「警官嫌い」の発表以来、約半世紀にわたり世界中の読者を魅了し続けている警察小説です。本作は、警察の捜査活動から登場人物の私生活までをリアルに描き出す「警察小説」（police procedural）というジャンルを確立した作品として、その名を刻んでいます。

物語の舞台：アイソラ市

物語は、アメリカ東部に位置する架空の都市、アイソラを舞台に展開されます。アイソラは、多様な人種がそれぞれの文化を育む、全米屈指の大都市であり、同時に犯罪多発都市でもあります。アイソラ市警察第87分署は、市内でも特に事件の多い地域を管轄しており、貧民街から高級住宅街まで、様々な顔を持つエリアを抱えています。87分署の刑事たちは、窃盗から殺人まで、日々発生する多種多様な犯罪に立ち向かいます。

ニューヨークを彷彿とさせる街並み

アイソラは架空の都市ですが、そのモデルはニューヨークです。アイソラの地形は、ニューヨーク市周辺を90度回転させたものとして描かれています。ニューヨークでは東西にストリート（○○丁目）、南北にアベニュー（○○街）が走っていますが、アイソラではこれが逆になっています。マンハッタンに相当するのは、二つの川に挟まれ湾に面したアイソラ島です。

87分署は、グローバー公園北側のグローバーアベニュー沿いに位置しており、これはニューヨークのセントラルパークウェストに相当するとされています。ただし、実際のニューヨーク市警察には「87分署」という分署は存在しません。物語に登場する83分署や88分署は、いずれもアイソラ島（マンハッタン）にある設定ですが、NYPDの80番台の分署はすべてブルックリンにあります。

警察の活動：リアルな描写

87分署シリーズでは、警察の活動が詳細に描写されています。例えば、刑事のスティーブ・キャレラが捜査車両を路上駐車する際、外から見えるように「POLICE Official Business」と書かれた駐車許可証を掲示するシーンがあります。これは、NYPDでも実際に行われていることであり、パトロール警官が誤って取り締まるのを防ぐための措置です。

無線パトロール車（RMP）

作中には「無線パトロール車」という言葉が登場します。これは、Radio Motor Patrol (Vehicle)の略で、パトカーやパトカーによる警ら活動、またはパトカーの警ら班を意味します。ニューヨークでは1920年代に無線機を搭載したパトカーによる警ら活動が始まり、この言葉が使われるようになりました。現代ではPolice carという言葉が一般的ですが、市当局はRadio Motor Patrolを正式な呼称として使用することがあります。

登場人物：個性豊かな刑事たち

87分署には、スティーブ・キャレラをはじめ、様々な個性を持つ刑事たちが所属しています。

スティーブ・キャレラ: シリーズの主人公。妻テディを深く愛する、正義感の強い刑事。
マイヤー・マイヤー: キャレラの同僚。ユダヤ人であり、苦労人。
アーサー・ブラウン: 黒人の大男で、好男子。
コットン・ホース: 赤毛の大男。30分署から異動してきた。
* バート・クリング: シリーズ初期はパトロール警官。後に刑事となる。

彼らは互いに協力し、時には衝突しながら、アイソラの街で発生する様々な事件に挑んでいきます。

時代と共に変化する描写

シリーズは50年という長い期間にわたって出版されたため、アイソラ市警察の描写も時代とともに変化しています。初期の作品では、パトロール警官が街頭警察電話で事件を通報する場面がありますが、現在では携帯用無線機が普及したため、街頭警察電話は姿を消しました。また、刑事が携帯する拳銃も、当初はリボルバーでしたが、近年ではグロックに変わっています。

87分署シリーズは、エド・マクベインの卓越した筆致によって、警察小説というジャンルに新たな地平を切り開いた作品です。リアルな描写と個性豊かなキャラクターたちが織りなす物語は、時代を超えて読者を魅了し続けています。

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