8:30

ウェザー・リポートによるアルバム『8:30』（エイト・サーティ）は、アメリカのエレクトリック・ジャズを代表するこのバンドが1979年にARC/コロムビア・レコードからリリースした作品です。本作は、主にライブ演奏を中心に構成されていますが、アルバム後半にはスタジオで録音された楽曲も複数収められており、バンドの当時の活動状況を多角的に捉えた内容となっています。

アルバムタイトルの「8:30」は、当時のバンドのライブが午後8時30分に開演することが多かったという習慣に由来しています。実際のツアーでは、ジョー・ザヴィヌル、ウェイン・ショーター、ジャコ・パストリアス、ピーター・アースキンという4人編成でステージに臨み、約2時間半にも及ぶ長時間演奏を繰り広げていました。このため、各メンバーは自らの名人芸を披露する機会を得るだけでなく、他のメンバーに休息を与えるという意味合いも込めて、随所でソロ演奏を行っていたとされています。ウェイン・ショーターはサックスだけでなく、ステージ上でパーカッションを演奏する場面も見られました。

また、スタジオ録音曲の一つであるカリプソ・スタイルの「ブラウン・ストリート」には、ジョー・ザヴィヌルの息子であるエリック・ザヴィヌルが、ピーター・アースキン、ジャコ・パストリアスと共にパーカッションで参加しており、家族ぐるみの繋がりも垣間見えます。

『8:30』のリリースに伴うツアーは、ウェザー・リポートにとってかつてないほどの商業的成功をもたらしました。このツアーでは、直近の成功作であるアルバム『ブラック・マーケット』や『ヘヴィ・ウェザー』からの選曲が中心となり、多くの聴衆を熱狂させました。本作に収録されている楽曲の中でも、バンドの代表曲として広く知られる「バードランド」のライブ・バージョンは特に大きな聴きどころの一つです。その卓越した演奏内容は高く評価され、本作はグラミー賞の「ベスト・ジャズ・フュージョン演奏」部門を見事に受賞しました。

ベーシスト、ジャコ・パストリアスのソロ演奏も本作のハイライトの一つです。特に有名なベースソロである「スラング」では、循環するテープを使用することで、まるで複数のベースが同時に演奏しているかのような効果を生み出しています。このソロの中では、ジミ・ヘンドリックスの「Third Stone from the Sun」や、ジャコ自身のソロ・アルバムに収録された名曲「トレイシーの肖像」、そしてミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』のメロディなどが引用されており、彼の音楽的な多様性とユーモアが感じられます。ソロの締めくくりには、ベース本体ではなくストラップを使って演奏するというパフォーマンスも見せています。

本作は当初、両側に折り込みのあるジャケットの2枚組LPレコードとして発売されました。しかし、その後のCD再発時には、収録曲のうち「スカーレット・ウーマン」を削り、1枚のCDに収められる形でリリースされることが多かったです。一方、日本では、初回発売時のLPと同じ曲構成を保ったまま、CD2枚組としてリリースされました。

アルバムのパーソネルは以下の通りです。

ジョー・ザヴィヌル: キーボード全般、アープ・クアドラ・シンセサイザー・ベース、コルグVC-10、シーケンシャル・サーキット プロフェット5、パーカッション
ウェイン・ショーター: テナーサックス、ソプラノサックス
ジャコ・パストリアス: フレットレス・ベース、パーカッション、ドラム（「8:30」、「ブラウン・ストリート」）
ピーター・アースキン: ドラム

ゲスト・ミュージシャンとして、エリック・ザヴィヌル（パーカッション：「ブラウン・ストリート」）と、ウエスト・ロサンゼルス・クリスチャン・アカデミー・チルドレンズ・クワイア（ボーカル：「親のない子」）が参加しています。

『8:30』は、ウェザー・リポートの圧倒的な演奏力と、ライブならではの熱気が凝縮された、エレクトリック・ジャズ史に刻まれる名盤として、現在も多くの音楽ファンに聴き継がれています。

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