Aさんの庭

Aさんの庭

東京都杉並区阿佐谷北に位置する杉並区立の公園、「Aさんの庭」（エーさんのにわ）は、かつて「トトロの住む家」として広く知られた一軒の民家が建っていた場所を整備した施設です。その歴史的背景とユニークな名前が特徴となっています。

由来と愛称

この土地には、1924年（大正13年）に建築された木造平屋建ての住宅がありました。旧近藤謙三郎邸として知られるこの建物は、当時の一般的な暮らしを偲ばせる2LDK程度の間取りでした。時を経て、この家はその趣ある佇まいから、アニメーション監督の宮崎駿氏によって「トトロが喜んで住みそうな家」と評されました。これがきっかけとなり、この家は「トトロの住む家」という愛称で多くの人々に親しまれるようになります。2006年には雑誌「東京人」や「杉並を楽しむ本」で「街角の名建築」として紹介されるなど、その存在は広く認識されるようになりました。

保存への動きと公園としての再生

旧住宅が空き家となった後、この歴史的な建物を守ろうという地元の保存運動が展開されました。建物の維持・保存を求める住民の署名は6,300筆以上集まり、こうした地域からの声を受けて、杉並区は2008年2月に用地を取得し、旧住宅の保存を決定しました。

しかし、保存に向けた取り組みが進む最中の2009年2月、旧住宅は不審火によって焼失するという悲劇に見舞われました。長年愛された建物が失われたことは、地域に大きな衝撃を与えました。

建物を失ったこの土地を、区は改めて公園として整備することを計画しました。その際、以前この家を「トトロの住む家」と称した宮崎駿氏から、焼失した建物の雰囲気を偲ばせるための公園デザイン画5枚が杉並区に寄贈されるという申し出がありました。この貴重なデザイン協力を得て、公園の整備が進められ、2010年3月に工事が始まりました。そして、2010年7月25日、「Aさんの庭」として新たな公園が開園を迎えることとなりました。

公園の特徴と名前の由来

公園として生まれ変わった「Aさんの庭」には、かつての住宅の記憶を残すための工夫が凝らされています。園内には、焼失前の建物の雰囲気を再現した建物が設けられており、これは来園者が利用できるトイレと、地域の防災活動に備えた防災倉庫を兼ねています。この建物の設計は山田達也氏によるものです。

旧住宅の基礎があった場所には生垣が配置され、かつての敷地の輪郭を今に伝えています。また、昔ながらの手押し式の井戸が設置されており、ノスタルジックな雰囲気を醸し出しています。園内には、バラやクヌギ、キンモクセイ、コブシといった、季節ごとに彩りを添える様々な種類の植物が植えられています。

公園の名前である「Aさんの庭」の「Aさん」とは、特定の個人を指すものではありません。これは公園を訪れる全ての人々、すなわち「あなた」を指しているとされています。「みんなの庭」という意味合いが込められた名称であり、誰でも気軽に立ち寄って自然や歴史を感じてほしいという願いが込められています。

利用情報

「Aさんの庭」は、地域の貴重な緑地空間として、また子供たちが安心して遊べる場所として活用されています。開園時間は季節によって変動し、概ね午前7時から、閉園時間は午後5時から午後7時の間となります。

交通アクセスは、JR中央線・総武線の阿佐ケ谷駅北口から歩いて約13分です。また、JR中野駅から関東バスを利用し、「東原」バス停で下車すれば、徒歩約4分で到着します。近くには杉並区立馬橋公園もあり、併せて散策を楽しむことも可能です。

「Aさんの庭」は、旧住宅の歴史と人々の思いを受け継ぎ、新たな姿で訪れる人々を迎える場所として、地域に根差しています。

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