A・G・クック

A.G.クック

A.G.クック（本名: アレクサンダー・ガイ・クック、1990年8月23日 - ）は、イギリス・ロンドンを活動拠点とする多才な音楽家です。音楽プロデューサーおよびシンガーソングライターとして、現代の音楽シーン、特に実験的な電子音楽やポップミュージックの分野で極めて大きな影響力を持っています。

若年期とキャリアの始まり

著名な建築家であるピーター・クックを父に持ち、芸術的な環境で育ちました。音楽の道を志し、ロンドン大学のゴールドスミス・カレッジで専門的な音楽教育を受けます。ここで培われた音楽理論と実験的なアプローチが、後の彼の活動の基盤となります。

PC Musicの設立とバブルガム・ベース

彼のキャリアにおける決定的な出来事は、2013年に自身が弱冠23歳でネットレーベル「PC Music」を設立したことです。このレーベルは、従来の音楽業界の慣習にとらわれず、インターネット文化やデジタル技術を積極的に取り入れた新たなサウンドを追求しました。極端に加工されたボーカル、過剰なほどにきらびやかなシンセサイザー、アップテンポなリズムを特徴とするこのサウンドは、後に「バブルガム・ベース」と呼ばれ、急速にアンダーグラウンドシーンで注目を集めました。A.G.クックは、このバブルガム・ベースムーヴメントの中心的人物として、PC Musicに集まる才能あるアーティストたちと共に、その独特な音楽世界を確立していきます。

メインストリームでの成功とチャーリー・XCXとの協業

PC Musicでのカルト的な成功を経て、A.G.クックは徐々にメインストリームの音楽シーンにもその活動の場を広げていきます。特に、シンガーソングライターのチャーリー・XCXとの協業は、彼のプロデューサーとしての評価を決定づけるものとなりました。2017年にリリースされたチャーリー・XCXのミックステープ『Number 1 Angel』では、PC Music周辺のアーティストであるソフィーやダニー・L・ハリーらと共にプロデュースを担当。この作品で高い評価を得た後、同年リリースのミックステープ『POP 2』にもプロデューサーの一人として参加し、その革新的なサウンドで注目を集めました。さらに、彼女のサードアルバム『Charli』（2019年）や、パンデミック中に制作されたアルバム『How I'm Feeling Now』（2020年）では共同エグゼクティヴプロデューサーを務めるなど、チャーリー・XCXの近年の音楽性にはA.G.クックの貢献が不可欠な要素となっています。両者は強固なクリエイティブパートナーシップを築き、実験的なポップミュージックの可能性を追求し続けています。

ハイパーポップへの影響

A.G.クックが牽引したバブルガム・ベースのサウンドは、2010年代後半からインターネットを中心に勃興した新たな音楽ジャンル「ハイパーポップ」の重要な源流の一つと広く認識されています。バブルガム・ベースが持つ、ポップの要素と実験性、デジタルな質感、ジャンル横断的なアプローチといった特徴は、そのままハイパーポップの核心とも言える要素となりました。このため、A.G.クックはしばしばハイパーポップの「始祖」あるいは初期の最重要人物として語られます。彼の革新的なアイデアとサウンドデザインは、多くのハイパーポップアーティストに直接的・間接的な影響を与え、このジャンルの確立と発展に貢献しました。

その他のプロデュース活動と自身の作品

チャーリー・XCX以外にも、A.G.クックは多数のアーティストへのプロデュースを提供しています。ラッパーのトミー・キャッシュのアルバム『¥€$』（2018年）、PC Music所属アーティストであるハンナ・ダイヤモンドの『Reflections』（2019年）、アイスランドのアーティストであるヨンシーの『Shiver』、ナマセンダの『Unlimited Ammo』など、その活動範囲は多岐にわたります。特に、日本の著名なシンガーソングライターである宇多田ヒカルのシングル「One Last Kiss」「君に夢中」「Gold 〜また逢う日まで〜」といった楽曲のプロデュースを手がけたことは、日本のリスナーの間でも大きな話題となりました。

自身のアーティストとしても活発に活動しており、これまでに複数のアルバムをリリースしています。代表的なものとしては、2020年に発表した膨大な数の楽曲を収録した野心的なアルバム『7G』や、よりキャッチーでポップな要素を打ち出した同年のアルバム『Apple』があります。これらの作品は、プロデューサーとしての顔とはまた異なる、彼の個人的な音楽表現や多様な試みを反映しています。その後も、両アルバムのリミックス作品『Apple vs. 7G』（2021年）や最新作となる『Britpop』（2024年）などを発表し、自身の音楽の探求を続けています。

結論

A.G.クックは、PC Musicという独自のプラットフォームを起点に、バブルガム・ベースやハイパーポップといった新しい音楽ジャンルを牽引し、アンダーグラウンドからメインストリームまでその影響力を広げた、現代音楽シーンにおける真に革新的な存在です。プロデューサーとして数々のアーティストのサウンドを刷新し、自身の作品でも常に実験的な姿勢を崩さない彼の活動は、今後の音楽のあり方を示唆しています。

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