A-31 (航空機)

ヴェンジェンス（Vultee Vengeance）

ヴェンジェンスは、アメリカ合衆国のヴァルティー社によって開発された急降下爆撃機で、主にイギリス空軍で使用されました。1942年から運用が開始され、ビルマやインド方面で日本軍との戦闘に投入されました。愛称の「ヴェンジェンス」は英語で「復讐」を意味し、この名前からもその運用目的が伺えます。また、アメリカ海軍型は「ジョージア」と呼ばれるなど、異なる名称が存在しました。

開発の経緯

ヴァルティー社は、フランス政府からの受注を受け、新型の急降下爆撃機モデル72（V-72）の開発を始めました。この機体は、当時としては非常に強力なライトR2600エンジンを搭載しており、堅牢な機体と充実した武装を誇っていました。しかし、フランスが1940年にドイツに降伏したため、当初の300機の発注は宙に浮いてしまいます。そこで、イギリス空軍がこの機体に関心を示し、代わりに「ヴェンジェンス」として発注が行われました。

イギリス空軍への引き渡しは1942年1月から始まりましたが、途中からアメリカ陸軍がA-31の名称で購入し、その後イギリスに供与されるという流れになりました。また、少数の機体はアメリカ陸軍がそのまま保有し、1942年にはエンジンを改善したA-35（イギリス名：ヴェンジェンスMK.4）も生産されました。総生産機数は1931機に達し、その中でアメリカでは323機が主に標的曳航用として利用され、残る1205機がイギリス空軍に納入されました。

運用状況

イギリス空軍では、ヴェンジェンスは極東方面で運用され、1943年から特にビルマやインドで日本軍との戦闘に参加しました。ブレニム爆撃機を補う形で運用され、一定の戦果を上げたことで評価されました。さらに、オーストラリア空軍やインド植民地空軍でも運用され、オーストラリアでは「ヴァルティー・ヴァルチュア」と呼ばれ親しまれました。

しかし、1944年以降は前線から撤退し、訓練機や標的曳航機として運用されるようになりました。生産された機体数は2,000機近いにもかかわらず、アメリカではほとんど実戦に投じられず、予備機や訓練任務に従事していたため、当局から「資源と材料の無駄」という厳しい評価を受けたこともありました。

ヴェンジェンスの特徴

この機体は、急降下爆撃機として設計されており、強力な武装を誇ります。例えば、ヴェンジェンス Mk.1（A-31）の主な諸元は以下の通りです：

• - 全長：12.12 m
• - 全幅：14.63 m
• - 全高：4.67 m
• - 全備重量：5,009 kg
• - エンジン：ライトR2600-19（空冷14気筒、1,600 hp×1）
• - 最大速度：443 km/h
• - 実用上限高度：6,858 m
• - 航続距離：2,253 km
• - 武装：226 kg爆弾×2、113 kg爆弾×2、7.62 mm機銃×6（翼内4、後席旋回2）
• - 搭乗員：2名

このように、ヴェンジェンスは一見すると優れた性能を持つ機体ではありましたが、実戦での運用と評価はアメリカ軍においては残念ながら低く、他国の軍隊によってその存在が軌道を描く結果となりました。

もう一度検索