ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY

1972年、青春の産物『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』

1972年、山下達郎と彼の友人たちによって制作された自主制作アルバム『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』。このアルバムは、単なるアマチュア作品という枠を超え、後に日本の音楽シーンを代表するアーティストとなる山下の原点であり、その後のキャリアに多大な影響を与えた、重要な作品と言えるでしょう。

中学時代からの友情と音楽への情熱

山下達郎と並木進は中学時代からのクラスメイト。音楽への共通の情熱から意気投合し、4人組のアマチュアバンドを結成します。当初はコーラスを主体としたグループを目指し、高校時代も活動を続け、メンバーも5人に増えました。しかし、限られた練習時間の中では思うようにハーモニーを奏でることが難しく、レパートリーはわずか7、8曲にとどまりました。大学受験や学生運動への参加など、様々な理由からバンドは一時解散状態となります。

再集結と自主制作アルバム制作への決意

その後も、並木は仲間たちと断続的に音楽活動を続けました。一方、山下は一人で多重録音を行うなど、音楽への渇望を募らせていました。1969年頃からは再び集まりに参加するようになり、大学進学を機に、1972年春、メンバー全員から自主制作アルバム制作の提案が持ち上がります。

並木は、その時の心境を「なんとなく、4人でレコードを作ってみようという気持ちになった。レコードを作ってどうなるかなんてことは考えていなかったが、何か形に残したかったんだ」と語っています。メンバーそれぞれが抱いた思いは違えど、音楽への情熱と、何かを形に残したいという共通の思いが、このアルバム制作の原動力となりました。

困難を乗り越えたレコーディング

アルバム制作は多くの困難を伴いました。まず、レコードの製造ルート確保は、友人のつてを頼りに東芝音楽工業の関係者を通じて実現しました。費用は100枚で13万5千円、1枚1500円という高額なものでした。

レコーディングには、当時画期的な多目的ミキサー「YESマシーン」を使用。これにより、ステレオ録音で音をセンターに定位させることができ、高音質の録音が可能となりました。楽器はメンバーが所有する中古楽器が中心で、録音は並木の自宅で行われました。

使用されたのは、当時一般的な19cm/secステレオ4トラックのオープンリールテープレコーダー。リズムトラックを録音した後、その音を聴きながらギターソロやコーラスなどを重ねていくサウンド・オン・サウンド方式で録音されました。

選曲とレコーディング過程

アルバムは、ザ・ビーチ・ボーイズやドゥーワップ、ロックンロールなどのカバー曲で構成されています。当初は全曲をビーチ・ボーイズのカバーにする案もありましたが、技術的な問題からA面に絞られました。選曲は山下と並木を中心に決定されました。レコーディングは曲順通りに行われ、A面は昼間に、B面は疲れが出てきたこともあり、アカペラや生ギターの演奏が多くなっています。コーラスパートは山下による譜面が用いられ、メンバー各自が練習してレコーディングに臨みました。

アルバムタイトルとジャケットデザイン

アルバムタイトル『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』は、ビーチ・ボーイズのアルバム『サンフラワー』に収録されている曲名からとられました。当初は同曲を収録する予定でしたが、コーラスの難易度が高く断念しています。

ジャケットのイラストは金子辰也が担当。当初はカラーでしたが、予算の都合でモノクロに変更され、急遽描き直されました。イラストには、メンバーが共同生活を送っていた様子が描かれています。金子は後にシュガー・ベイブのアルバム『SONGS』のジャケットも手がけています。

アルバム発表後の展開

約2ヶ月に渡るレコーディングを経て完成したアルバムは、当初の予想に反して、ほとんどが無料で配布される結果となりました。しかし、このアルバムがきっかけで、多くの新しい人脈が生まれ、それが後にシュガー・ベイブ結成へと繋がっていきます。また、このアルバムは伊藤銀次、そして大瀧詠一にも届けられ、山下の音楽人生に大きな影響を与えました。

1985年にはアナログ盤で復刻され、1992年にはCD化されました。CD化にあたっては、マスターテープの劣化により、オリジナルのアナログディスクがマスターとして使用されています。

『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』は、山下達郎の音楽家としての出発点であり、その後の輝かしいキャリアの礎を築いた作品と言えるでしょう。この作品には、若き日の山下達郎と仲間たちの情熱と、音楽への純粋な思いが凝縮されています。

もう一度検索