AGS・JH23

AGS・JH23：悲劇と挑戦のフォーミュラ1マシン

AGSチームが1988年のF1世界選手権参戦のために開発したAGS・JH23は、同チームの歴史、そしてF1界において重要な位置を占める1台です。本記事では、このマシンの開発からレース戦績、そして現在に至るまでの道のりを詳細に解説します。

開発：シンプルさと革新性の共存

前年モデルであるJH22の後継として開発されたJH23は、JH22とは対照的にシンプルでコンパクトな設計が特徴です。コスワースDFZエンジンとグッドイヤータイヤを搭載。当初はMGN製のW型12気筒エンジンの搭載も噂されましたが、実現には至りませんでした。

設計はクリスチャン・バンダープレインが担当。1988年秋に着手し、翌年初頭に完成させました。しかし、バンダープレインは同年8月にチームを離れ、その後はクリストフ・コケとクロード・ギャロパンが開発を引き継ぎました。

JH23は、それまでのルノー製モノコックを採用したJH21CやJH22とは一線を画す、全く新しい設計思想に基づいて開発されました。モノコック、サスペンション、トランスミッションは完全に刷新され、現代的なデザインとなりました。いくつかの資料では、バンダープレインがJH23の設計に既存部品を一切流用しなかったと主張していますが、一方でリアアップライトはルノーRE60からの流用であるという情報もあります。

ホイールベースは2680mmと当時最小クラスでしたが、車重は25kgとやや重めでした。空力性能は大幅に向上し、低い車高とエンジンカバーを覆うロールバーが特徴的でした。しかし、このロールバーは金属パイプ製でモノコックに直接接続されておらず、溶接のみという脆弱な構造だったため、後々問題となることになります。

搭載エンジンはコスワースDFZ（1988年）とコスワースDFR（1989年）で、チューニングはハイニー・マーダーが担当しました。ドライバーであるフィリップ・ストレイフは、JH23のハンドリングはJH22よりも優れていたと評価していましたが、予算の制約から開発は限定的でした。

1988年には3台のシャシー（034、035、036）が製造されました。ストレイフの事故により1台が損壊し、残りの2台は1989年夏まで使用されました。

レース戦績：光と影

1988年

1台体制で臨んだ1988年シーズン。全戦予選通過を果たし、第5戦カナダGPでは一時4位を走行するなど、ポテンシャルの高さを示しました。しかし、信頼性不足によるリタイヤが相次ぎ、資金不足による開発遅延も相まって、ポイント獲得には至りませんでした。

1989年

1989年シーズンは改良型のJH23Bで開幕。エンジンはコスワースDFRに換装され、2台体制で臨みました。しかし、開幕前のテストでストレイフが大事故を起こし、選手生命を断たれるという悲劇に見舞われます。その後任としてガブリエル・タルキーニが起用され、第4戦メキシコGPでは6位入賞を果たしました。しかし、2台体制も予備予選通過の困難や開発の遅れなどもあり、成績は振るわず、第8戦以降はJH24へと移行しました。

その後

製造された3台のJH23のうち、2台はAGSが保有し、1台はフランスの博物館に展示されています。

結語

AGS・JH23は、限られた予算と資源の中で開発されたマシンでありながら、そのポテンシャルの高さと、ストレイフの事故という悲劇的な出来事を経て、F1の歴史に深く刻まれた一台です。このマシンが示した挑戦と限界は、今もなお多くのF1ファンを魅了し続けています。 また、このマシンは技術的な進歩だけでなく、モータースポーツにおけるリスクと安全性の重要性を改めて認識させるものとなりました。

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