AKG

AKGは、マイクロフォンやヘッドフォン、リバーブレーターなどの音響機器を手がけることで世界的に知られるメーカーです。正式名称はドイツ語で「Akustische und Kino-Geräte Gesellschaft m.b.H」（有限責任会社音響および映画機器）といい、AKGはその頭文字を取った略称です。現在はアメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスに本社機能を置いています。

歴史

AKGの創業は1947年、オーストリアのウィーンに遡ります。ルドルフ・ゲリケとエンジニアのエルンスト・プレスによって設立された当初は、映画関連の音響機器製造からスタートしました。初期には、DYNシリーズと呼ばれる手作りのダイナミックマイクロフォンなども知られています。設立当初から、AKGが設計・製造するマイクロフォンやヘッドフォンは、その品質の高さからヨーロッパを中心に広く採用され、世界中のレコーディングスタジオ、放送局、映画スタジオで信頼される存在となりました。

AKGの名声を不動のものとした製品の一つに、1953年に発表された真空管式コンデンサーマイクロフォン「C 12」があります。このモデルは優れた性能を持ち、多くのスタジオや放送局に導入され、AKGブランドの象徴となりました。現在でも、その基本設計を受け継いだ復刻モデルなどが販売されており、また他のメーカーからもC 12を模倣したモデルが登場するなど、コンデンサーマイクロフォンのひとつの基準として認識されています。

企業の運営体制はその後大きく変化します。1994年にはアメリカ合衆国のハーマン・インターナショナル傘下に入り、2017年にはそのハーマンがサムスン電子の完全子会社となったことで、AKGもサムスン電子グループの一員となりました。ハーマン傘下への移行に伴い、AKG製品の製造拠点の大部分は中国へ移され、開発機能はハーマンの持つアメリカの拠点への統合が進みました。ウィーンのオフィスは、ハイエンドマイクの一部製造や既存製品の改良などを担う形となりましたが、サムスン傘下への移行後、ウィーンで行われていた製造機能は東欧などへ移転し、ウィーンのオフィスは閉鎖されました。これを受け、ウィーンの技術者の中にはAKGから独立し、オーストリアン・オーディオ（Austrian Audio）社を設立した者たちもいます。

日本国内では、プロオーディオ製品については2008年からヒビノが輸入総代理店を務めています。一方、ヘッドフォンなどの一部製品はハーマンが取り扱っています。さらに、2019年にはオンライン販売向け製品の国内正規輸入代理店としてサウンドハウスが加わっています。

主な製品群

AKGは幅広い音響機器を手がけていますが、特にマイクロフォンとヘッドフォンは長年にわたり専門家から高い評価を得ています。

マイクロフォン

AKGのマイクロフォンは、特に高音域における周波数特性に特徴があるとされます。レコーディングスタジオでは、ボーカルやアコースティックギター、ドラムスなど、さまざまな音源の収音に標準的に使用されるブランドの一つです。

代表的なコンデンサーマイクロフォンには以下のようなモデルがあります。

C 12（真空管式）：1953年発表の伝説的なモデル。高音圧にも対応可能な設計で、現在でもボーカル録音などで多用されています。C 12Aという後のC 414シリーズの原型となったモデルも存在します。
ELA M-250/251（真空管式）：ドイツのテレフンケンブランドでも知られるモデルですが、ごく少数ながらAKGブランドでも製造されました。現在では非常に希少価値が高い機種です。
C 24（真空管式）：C 12のステレオ版とも言えるモデルで、上下に配置された2つのカプセルでステレオ収音を可能にします。指向性やステレオイメージを柔軟にコントロールできますが、C 12以上に希少なモデルです。
C 414：C 12Aの流れを汲むラージダイアフラムコンデンサーマイクロフォンで、長年にわたりスタジオの定番としてあらゆる楽器やボーカルに使用されています。本体にフィルター、PAD、指向性切り替えスイッチを備え、多くのバリエーションモデルが登場しています。
C 451：1969年発売のペンシル型スモールダイアフラムコンデンサーマイクロフォン。本体とカプセルが分離できる構造が特徴で、特にシンバルやアコースティックギターなどの繊細な音の収音に好んで使われます。現在もC 451 Bとして販売されています。

リバーブレーター

AKGは独特なリバーブレーターも製造していました。機械的なスプリングリバーブレーターと、DSPを用いたデジタルリバーブレーターがあります。

スプリングリバーブレーター：代表機種にBX-20やBX-10があります。複数のスプリングに音声信号を送って物理的に振動させ、それをピックアップしてリバーブ成分を生成します。BX-20は家庭用冷蔵庫ほどもある巨大な木製キャビネットに収められており、その存在感でも知られています。
デジタルリバーブレーター：ADR 68Kなどが代表的です。DSPによる演算処理でリバーブ成分を生成し、初期反射やリバーブタイム、密度など様々なパラメータを詳細に設定できます。ホールやプレート、ルームなど、実在空間を模したアルゴリズム選択や、現実にはない独特なリバーブ効果を作り出すことも可能でした。

ヘッドフォン

1975年のK240発売以降、AKGのヘッドフォンはレコーディング、放送、映画制作といったプロの現場で広く使われています。スタジオモニター用だけでなく、リスニング向けのモデルやポータブル用途のモデルも展開されています。

スタジオ・シリーズ：プロフェッショナル用途として高い信頼を得ています。K240 Studioは、モニタリングやレコーディングに適したフラットな特性と明瞭な定位感、そして聞き疲れしにくいサウンドが特徴です。K271 Studioは密閉型で、最終的なバランス確認などに用いられます。
* Kシリーズ：コンシューマー向けのハイエンドラインを含む様々なモデルがあります。オープンエアー型が多く、広い音場表現が特徴とされるモデルもあります。K812が最上位モデルに位置し、その下にK712、K702、K701などが続きます。K701はかつて最上位に近いモデルで、その独特の音場感が注目されましたが、一度生産終了後に仕様変更を経て再生産されています。K612やK601、生産終了したK501などもこのシリーズに含まれます。

AKGは、長年の歴史と革新的な技術で、プロフェッショナルからオーディオ愛好家まで、世界中の人々に愛される音響機器を提供し続けています。

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