AMS-LaTeX

AmS-LaTeX

AmS-LaTeX（エーエムエス・ラテフ）は、アメリカ数学会（American Mathematical Society, AMS）によって開発された、数学的記述に特化したLaTeXのドキュメントクラスおよびパッケージの集合体です。数学論文や書籍などの文書作成において、複雑な数式の表現やレイアウトをより高品質かつ容易に行えるように設計されています。

開発の背景

AMSは当初、TeXの創始者であるドナルド・クヌースのTeXを基盤としたマクロパッケージ、AmS-TeXの開発をMichael Spivak氏の協力のもとで進めていました。しかし、レスリー・ランポート氏によってTeXがさらに使いやすく改良されたLaTeXが登場すると、AmS-TeXの持つ強力な機能をLaTeX環境で利用したいという要望が高まりました。これに応える形で、Frank Mittelbach氏やRainer Schöpf氏らが中心となり、AmS-LaTeXの開発が開始されました。

現在の構成

2023年2月現在、AMSが公式に提供しているLaTeX関連のツール群はAmS-LaTeXの枠を超えて拡充されており、従来のAmS-TeXは現在では利用されていません。AMSが提供する主要なLaTeXユーティリティは以下の通りです。

AmS-LaTeX: AMS出版物のための標準的なドキュメントクラス群である`amscls`と、数式組版の機能強化を図るパッケージ`amsmath`の二本柱で構成されます。
AMSFonts: 数式で使用するフォントを拡張するためのパッケージ群です。多様な数学記号を提供する`amssymb`や、オイラーフォントを利用するための`eucal`, `eufrak`, `euscript`などが含まれます。
amsrefs: AMS系の論文誌に合わせた参考文献リストを作成するためのスタイルパッケージです。
snapshot: 作成中のLaTeXドキュメントが依存している外部ファイルやパッケージのリストを出力するツールです。

特に、高度な数式表現を必要とする数学文書を作成する際には、`amsmath`パッケージとAMSFontsに含まれる`amssymb`パッケージを組み合わせて使用することが、今日の標準的な方法とされています。

AmS-LaTeXの主要コンポーネント

AmS-LaTeXの中心となるのは`amsmath`パッケージと`amscls`ドキュメントクラス群です。AMS内部向けのパッケージなどを除くと、主な構成要素は以下のようになります。

`amsmath`パッケージ

数式組版に関する機能を強化するパッケージ群です。

`amsmath.sty`: `amsmath`パッケージの根幹を成すファイルで、複数行にわたる数式の整列や、様々な数学的構造を記述するためのコマンドを提供します。以下のパッケージは`amsmath`を読み込むと自動的に読み込まれます。
`amstext.sty`: 別行立て数式の中に通常のテキストを挿入するための`\text`コマンドを提供します。
`amsopn.sty`: `\sin`, `\lim`などの基本的な演算子名を定義し、独自の演算子名を定義するための`\DeclareMathOperator`コマンドを提供します。
`amsbsy.sty`: 数式中でイタリック体の要素を太字にする機能を提供します。現在では`bm`パッケージの使用がより推奨されていますが、旧来の文書との互換性のために残されています。
旧バージョン互換パッケージ: AmS-LaTeXの初期バージョン（バージョン1.1まで）はAmS-TeXの設計を強く引き継いでいましたが、バージョン1.2以降でLaTeX2εに適合するように大幅に刷新されました。この過程で変更されたコマンドや機能について、以前のバージョンとの互換性を保つために以下のパッケージが存在します。これらは`amsmath`とは別に明示的に読み込む必要があります。
`amstex.sty`: バージョン1.1までのAmS-LaTeXで中心的な役割を担っていたパッケージです。
`amscd.sty`: ごく単純な可換図式を描画するための機能を提供します。ただし、現在は`diagram`, `xypic`, `kuvio`といったより高機能なパッケージの使用が推奨されています。
`amsxtra.sty`: バージョン1.1に存在したコマンドのうち、現在の`amsmath`には含まれていないものを提供します。

`amscls`ドキュメントクラス群

AMSが発行する出版物の体裁に合わせたドキュメントクラス群です。

`amsart.cls`: AMSの学術論文誌の形式に合わせた記事（article）用のドキュメントクラスです。
`amsproc.cls`: AMSの会議録（proceedings）の形式に合わせたドキュメントクラスです。
`amsbook.cls`: AMSの書籍の形式に合わせたドキュメントクラスです。これに関連して、書籍作成を補助するパッケージとして`amsmidx.sty`（複数の索引分割）や`amsbooka.sty`（章ごとに著者が異なる場合に対応）があります。
`upref.sty`: 文書中の相互参照（`\ref`コマンドによる参照）を直立体（ローマン体）で表示させるためのパッケージです。
* `amsthm.sty`: 定理、補題、証明といった数学的な主張を記述するための環境を提供し、適切なスタイルと番号付けを行います。

主な機能と使用例

AmS-LaTeXは、特に`amsmath`パッケージを通じて、複雑な数式を美しく組版するための強力な機能を提供します。

例えば、複数行にわたる等式を特定の記号（例えば等号`=`）で揃えて表示したい場合、`aligned`環境などを利用することで容易に実現できます。

latex
\documentclass{article}
\usepackage{amsmath}
\begin{document}
\begin{aligned}
y &= (x+1)^2 \\
&= x^2 + 2x + 1
\end{aligned}
\end{document}


上記のLaTeXコードは、`y = (x+1)^2` と `= x^2 + 2x + 1` という2つの行を等号の位置で縦に揃えて出力します。

また、`amsthm`パッケージを使用すると、定理、定義、証明などの環境を簡単に設定し、自動で番号を付けたり、特定のスタイル（イタリック体、太字など）を適用したりできます。

latex
\documentclass{article}
\usepackage{amsthm}
\begin{document}
\begin{theorem}[Pythagoras]
Suppose $a\leq b\leq c$ are the side-lengths of a right triangle. Then $a^2+b^2=c^2$.
\end{theorem}
\begin{proof}
...
\end{proof}
\end{document}


このコードは「Theorem 1 (Pythagoras)」のように見出しと番号を付け、定理の内容を適切なスタイルで表示します。また、証明環境は自動的に「Proof」という見出しを付け、文末に墓石記号（□）を挿入します。

AmS-LaTeXは、現代の数学文書作成において欠かせないツールとなっており、その機能はLaTeXの標準的な数式組版機能を大きく強化しています。

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