TeX

TeXの概要と歴史

TeXは、スタンフォード大学のドナルド・クヌース教授が、自身の著書『The Art of Computer Programming』の改訂版作成中に開発に着手した組版処理システムです。当時の写植技術では、旧版の鉛版組版の美しさを再現できないことに不満を持ったクヌース教授は、自ら組版を完全に制御できるシステムを目指しました。

ギリシャ語の「技術、芸術」を意味するτέχνη (テクネ)に由来するTeXは、1978年に最初のバージョンがリリースされましたが、クヌース教授は徹底的なバグ修正を続け、1989年にバージョン3を「完成版」としてリリースしました。その後もバグ修正は続けられ、バージョン番号は円周率πに近づける形で更新されています(πに到達した時点で開発終了予定)。

TeXの開発においては、クヌース教授が提唱する「文芸的プログラミング」の思想が反映されており、コードとドキュメントを一体的に管理するシステムが用いられました。Pascal言語で記述されたTeXのソースコードは、クヌース教授が開発したWEBシステムによって管理されており、現在ではC言語をターゲットとしたWEB2Cも利用されています。

TeXの機能と特徴

TeXは、マークアップ言語に基づいて記述されたテキストファイルを読み込み、組版処理を行います。出力されるDVIファイルはデバイス非依存の中間形式であり、各種ビューアやプリンタドライバを用いて、紙への印刷やディスプレイへの表示が可能です。

TeXの主要な機能は以下の通りです。

高精度な数式表現: TeXは、数式を美しく、正確に表現することに定評があります。複雑な数式も容易に記述できます。
自動組版処理: 行分割、ページ分割、ハイフネーション、リガチャ、カーニングといった組版処理を自動で行います。これらの処理は、パラメータの変更によってカスタマイズ可能です。
マクロ機能: 新しい命令を定義できるマクロ機能により、ユーザ独自の拡張が可能です。多くのマクロパッケージが公開されており、様々な用途に対応できます。
オープンソース: TeXはオープンソース[[ソフトウェア]]であるため、誰でも自由に利用・改変・再配布が可能です。ただし、クヌース教授は直接の配布を制限しており、change fileを用いた差分配布を推奨しています。
OS非依存: 出力結果はOSに依存しません。Windows、Mac、Linuxなど、様々なOSで利用できます。

TeXと関連ソフトウェア

TeXには、多くの関連ソフトウェアが存在します。

LaTeX: TeXを拡張したソフトウェアで、より使いやすく、高度な機能を提供します。多くのTeXユーザはLaTeXを利用しています。
METAFONT: クヌース教授が開発したフォント作成システム。Computer Modernフォントの設計にも用いられました。
Unicode対応拡張版: XeTeX、LuaTeX、upTeX、e-upTeXなど、Unicodeに対応した拡張版が登場し、多言語対応が容易になりました。日本語組版には、pTeXをベースとしたupTeXやe-upTeXが広く利用されています。
マクロパッケージ: AmS-TeX(数式用)、MusiXTeX(楽譜用)など、様々な用途に特化したマクロパッケージがあります。
DVIウェア: DVIファイルを扱うソフトウェア。ビューア、PostScriptへの変換ツール、プリンタドライバなどがあります。
* 統合環境: TeXworks、TeXShop、LyXなど、TeXの作業効率を上げる統合環境が多数存在します。

TeXのコミュニティ

TeXには世界中に活発なコミュニティが存在します。TeX Users Group (TUG)、Deutschsprachige Anwendervereinigung TeXなど、様々なユーザグループがあり、情報交換やサポートが盛んに行われています。オンライン上では、tex.stackexchange.comなどの質問応答サイトも存在します。

TeXの日本語化

日本語組版のためのTeXシステムとしては、アスキーのpTeXとNTTのNTT JTeXが開発されました。pTeXはJIS X 0208をベースとしたマルチバイト文字に対応し、多くのユーザに利用されています。一方、NTT JTeXは、複数の1バイト文字セットを用いることでオリジナルのTeXからの変更を最小限に抑えています。現在では、Unicode対応拡張版の普及により、日本語組版における課題は大きく改善されています。

まとめ

TeXは、高品質な組版処理を求めるユーザに長く愛用されてきたシステムです。その堅牢性、拡張性、そして活発なコミュニティにより、今後も発展を続けると予想されます。Unicode対応の拡張版の普及により、より多くのユーザがTeXの利便性を享受できるようになっています。

もう一度検索