AP-1

AP-1（アクチベータータンパク質1）

概要

AP-1（activator protein 1、アクチベータータンパク質1）は、細胞が多様な刺激に応答し、遺伝子の働きを調整するために機能する重要な転写因子です。転写因子とは、DNA上の特定の領域に結合し、遺伝子がRNAにコピーされる過程（転写）を制御するタンパク質です。

AP-1は、c-Fos、c-Jun、ATF、JDPといったタンパク質ファミリーに属するメンバーが二つずつ組み合わさることで機能します。特に、異なるファミリーのメンバーが結合したヘテロ二量体として働く活性が重要です。c-Junとc-Fosのヘテロ二量体はその代表例です。

機能と生理的役割

AP-1は、細胞内外からのシグナルに応答し、細胞応答を調整する中核を担います。その活性は、成長因子、サイトカイン、物理的・化学的ストレス、病原体刺激など、多様な刺激に応じて制御されます。

これらの刺激が細胞内の情報伝達経路を経て伝達されると、AP-1が活性化されます。活性化されたAP-1は、細胞核内で標的遺伝子のプロモーター領域やエンハンサー領域にある特定のDNA配列に結合し、その遺伝子の転写を促進または抑制することで、細胞応答を誘導します。

AP-1が制御する細胞プロセスは多岐にわたります。主要な生理機能として以下が挙げられます。

細胞の増殖と分化: 細胞数の増加や特定の機能を持つ細胞への成熟に関与。
アポトーシス: プログラムされた細胞死の実行。
炎症反応: 炎症性メディエーターの産生制御。
細胞の運動と形態変化: 細胞の移動や形の変化に影響。

AP-1は細胞の生存、成長、応答に関わり、機能異常はがんや炎症性疾患など多様な病態と関連します。

分子構造とDNA結合

AP-1がDNAに結合するためには、構成タンパク質が安定した二量体を形成する必要があります。この二量体形成の鍵は、ロイシンジッパー（leucine zipper）と呼ばれる構造モチーフです。AP-1ファミリーのタンパク質はこの領域を持ち、互いに結合して安定な二量体構造を形成します。

形成されたAP-1二量体がDNA上の標的配列を認識し結合するのは、塩基性アミノ酸領域です。この領域には、正電荷を持つリジンやアルギニンが多く含まれます。AP-1は、DNA上のTPA DNA応答配列（TRE: TPA Responsive Element）と呼ばれる配列（「5'-TGAG/CTCA-3'」など）を認識します。塩基性アミノ酸領域は、TRE配列の特定の塩基との化学結合や、負電荷を持つDNA骨格との静電的相互作用によって、TREに特異的かつ強固に結合します。

シグナル伝達経路による制御

AP-1の活性は、複雑なシグナル伝達経路によって調節されています。特に重要なのが分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ（MAPK）経路です。成長因子やストレスがMAPK経路を活性化すると、下流のキナーゼがAP-1を構成するタンパク質（c-Junやc-Fosなど）をリン酸化します。このリン酸化修飾は、AP-1の転写活性や安定性を変化させ、機能状態を大きく左右します。

AP-1はMAPK経路を含む様々なシグナル伝達経路の下流に位置し、受け取った情報を遺伝子発現としてアウトプットする重要な役割（エフェクター）を担います。AP-1の研究は、基礎生物学から病態解明、治療法開発まで幅広く重要です。

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