ARTERY & VEIN : THE VERY BEST OF YUTAKA OZAKI

『ARTERY & VEIN : THE VERY BEST OF YUTAKA OZAKI』は、日本のシンガーソングライター、尾崎豊にとって通算2枚目となるベストアルバムです。1999年 11月25日、ソニー・ミュージックレコーズよりリリースされました。1996年の前作『愛すべきものすべてに』から約3年ぶり、また同年に発表されたライブアルバム『風にうたえば』からはおよそ8か月を経ての作品となりました。

前作『愛すべきものすべてに』が主にシングル曲を中心に構成されていたのに対し、本作は1988年発表の4作目『街路樹』を除くアルバム作品から選曲の中心を据えている点に特色があります。また、一部の楽曲ではシングルバージョンやライブバージョンが採用されており、前作と共通する楽曲であっても、異なる音源が収録されることで、全く同じ内容にならないよう配慮されています。

制作背景とタイトルに込められた意味

本作の制作にあたり、プロデューサーである須藤晃氏は、それぞれの楽曲が作られた当時のマルチテープを改めて聴き直す作業を行いました。これにより再ミックスも検討されましたが、最終的にはそれぞれの楽曲がリリースされた時の形を尊重する判断に至りました。須藤氏は、過去の音源を聴く過程で、レコーディング時に詞やメロディに多少の迷いや手直しがあったことなど、新たな発見があったと語っています。当時の試行錯誤の跡を尊重する形で、オリジナルのマスターテープによるリリースが決定されました。また、リリース当時、須藤氏は本作が尾崎豊の公式なアルバムとしては最後の作品になるだろうと述べていました。

前作『愛すべきものすべてに』がバラードを中心とした構成だったのに対し、本作は尾崎の音楽性の「静」と「動」の両面をバランス良く収めた内容となっています。アルバムタイトルに冠された「ARTERY & VEIN」は、1990年発表の5作目『誕生』のブックレットに初めて使用された英詩のタイトルに由来します。これは尾崎の死後、関連イベントなどの総称としても用いられており、須藤氏はこれを「尾崎豊の精神を象徴する言葉」として解釈しています。須藤氏は同英詩について、「これらの言葉が、生きることに貪欲で、こだわり続けた彼の姿勢を明確に表現している。血は生気も毒気も運び、全身をくまなく巡り、心臓から送り出されて戻る」と述べています。そして、人間の中に存在する相反する双極性（静と動、生気と毒気など）をストレートに体現した尾崎のスピリチュアルなメッセージを、「ARTERY & VEIN」という言葉で表したいと考えた、と語っています。

アルバムの構成と収録曲

本作は2枚組で構成されています。DISC 1には、1983年の1作目『十七歳の地図』から「十七歳の地図」と「僕が僕であるために」、1985年の2作目『回帰線』から「存在」と「シェリー」、同じく1985年の3作目『壊れた扉から』から「失くした1/2」、1990年の5作目『誕生』から「ロザーナ」「COOKIE」「誕生」が収録されています。さらに、1992年のライブビデオ『TOUR 1991 BIRTH』より「I LOVE YOU」、1992年の6作目『放熱への証』より「優しい陽射し」、1993年のライブアルバム『約束の日 Vol.2』より「太陽の破片」、そしてシングル「15の夜 (ライブ)」のカップリング曲であった「ダンスホール」が収められています。

収録曲の中で、「十七歳の地図」はシングルバージョンが採用されており、これは1995年のCD-BOX『TEENBEAT BOX』のボーナストラックとしては収録されていましたが、オリジナルアルバムとしては本作で初めて収録されました。「I LOVE YOU」のライブテイクは、このアルバムのために新たにミックスが施されています。「太陽の破片」についても、残されたライブテイク全てを再ミックスした上で検討が行われましたが、最終的には『約束の日 Vol.2』に収録されたバージョンが採用されました。「ダンスホール」は、1991年10月30日に行われた尾崎にとって生前最後のライブからの音源であり、彼が聴衆の前で最後に歌った貴重なテイクとなっています。

DISC 2には、キーボーディスト井上鑑氏の1986年のCDブック『TOKYO INSTALLATION』に収録された、尾崎豊が自身の名義以外の作品のために書き下ろした唯一の楽曲であるインストゥルメンタル2曲が収録されています。この『TOKYO INSTALLATION』は東京をテーマに制作され、井上氏と浜田省吾氏、尾崎豊氏がそれぞれ2曲ずつ提供しました。浜田氏の提供曲には井上氏、浜田氏、尾崎氏3人の談笑が収められており、尾崎氏の提供曲にも彼自身の音声が使用されています。

チャート成績と評価

本作は1999年 11月25日に、12曲入りの12センチCDと2曲入りの8センチCDからなる2枚組パッケージとしてリリースされました。オリコンアルバムチャートでは最高位14位を記録し、9週にわたってチャートイン。累計売り上げ枚数は5.3万枚となりました。

プロデュースは須藤晃氏（カリントファクトリー）、アート・ディレクション、デザイン、写真提供、イラストレーションは田島照久氏（Thesedays）が手掛けています。

『ARTERY & VEIN』は、シングルベストとは異なる視点から尾崎豊の多様な音楽性を掘り下げた作品として、彼のファンにとって重要な意味を持つベストアルバムと言えるでしょう。

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