ATS・HGS1

ATS・HGS1：挑戦と挫折の物語

1981年のF1世界選手権。ATSチームは、ハーベ・ギルピンとティム・ワドロップが設計した新型マシン、ATS・HGS1を投入しました。このマシンは、前モデルD4と比較してより曲線的なボディデザインが特徴です。チームオーナーであるギュンター・シュミットの頭文字が型式名に含まれている点も注目に値します。

HGS1はベルギーグランプリから参戦を開始しました。スポンサーは当初特にありませんでしたが、ドライバーのスリム・ボルグッドがABBAのバックバンドドラマーであった縁から、サイドポッドにはABBAのロゴがペイントされました。これは無償提供によるものでしたが、チームにとって貴重な存在感を示すものとなりました。第11戦からは、機械メーカーであるシュタインボックがスポンサーに付き、チームを支援しました。

1981年シーズンのATSチームは、ヤン・ラマースとボルグッドの2台体制でスタートしましたが、第5戦以降はボルグッド1台体制に縮小されました。これは、チームの予算や技術的な制約を反映した苦渋の決断だったと考えられます。チームは、限られたリソースの中でマシンの改良と戦略を練りながら、シーズンを戦い抜きました。

厳しい戦いが続くなか、HGS1はイギリスグランプリでついに予選を通過、決勝では6位入賞を果たし、貴重なポイントを獲得しました。この結果は、チームにとって大きな励みとなり、残りのレースでも下位ながらも予選通過を繰り返しました。しかし、マシンの信頼性や戦闘力の不足により完走は2回のみ（イギリスGPの6位とオランダGPの10位）に終わり、シーズンランキングは12位、獲得ポイントはわずか1ポイントという結果に終わりました。

シーズン終了後、2台製作されたHGS1はすべてD5へと改良され、翌シーズンも使用されました。これは、限られた予算の中でマシンの有効活用を図ったATSチームの戦略を反映しています。

ATS・HGS1は、資金力や技術力の不足というハンディキャップを抱えながらも、F1という最高峰の舞台で戦い抜いた、不屈の精神を持つマシンの象徴と言えるでしょう。ABBAのロゴが描かれたマシンは、その挑戦と挫折の歴史を物語る、F1史における忘れがたい1ページを刻みました。HGS1は、決して成功したマシンとは言えませんが、その存在は、F1における挑戦と情熱を改めて感じさせてくれる、重要な存在となっています。

F1における全成績（一部）

詳細な成績データは、Racing Sports Carsなどのウェブサイトで確認できます。（※データは公開情報に基づいており、情報の正確性については保証できません。）

第8戦からは、エイヴォン製タイヤに換装されました。この変更がマシンのパフォーマンスにどのような影響を与えたのか、詳細な記録は残されていませんが、これもまた限られたリソースの中で最善策を探ったチームの努力の跡と言えるでしょう。

限られた予算と資源の中で、ATSチームは、創意工夫とドライバーの粘り強い走りで、この困難なシーズンを戦い抜きました。HGS1は、決して華々しい結果を残したマシンではありませんでしたが、その挑戦の歴史は、F1の歴史の中に確かに刻まれています。

もう一度検索