An-71 (航空機)

An-71（アントノフ71）は、冷戦期のソビエト連邦で開発された早期警戒管制機（AWACS）です。NATOコードネームは「Madcap」と呼ばれました。

開発の背景

ソ連における早期警戒管制機の運用は、旧式のTu-126に始まり、主に国土防空を担う防空軍（PVO）で行われていました。当時のソ連の航空戦力は、単一の軍種として全ての能力を有していたわけではなく、空軍（VVS）と独立した防空軍（PVO）が存在し、VVSもいくつかの部門に分かれていました。特に本土防空を専門とする防空軍が独立した軍種であった点がソ連の特徴です。

既存のTu-126は能力・機数ともに不足し老朽化も著しかったため、その後継機として、防空軍だけでなく、ソ連空軍の前線航空部隊（VVS-FA）でも運用可能な新型早期警戒管制機の開発が計画されました。これは、より大型で高性能なA-50（米E-3セントリー相当）と、比較的小型で戦術的な運用を想定したAn-71（米E-2C相当）の二系統の配備を目指す方針でした。ここでいうAn-71のE-2C相当とは、空母艦載機としての能力ではなく、前線における航空作戦の戦術的支援能力を指していました。

新型早期警戒管制機の必要性は、1982年のレバノン紛争で発生した「ガリラヤの平和作戦」における戦訓によってさらに強く認識されました。この作戦で、ソ連製戦闘機を使用するシリア空軍は、イスラエル空軍に対し大敗を喫しました。ソ連側は、早期警戒管制機E-2Cの支援を受けたイスラエル空軍が圧倒的優位に立ったと分析し、新型機の導入が戦闘効率を大幅に向上させると期待しました。

An-71はソ連空軍および防空軍が陸上基地から運用するための早期警戒管制機として開発されたものであり、ソ連海軍の空母で運用する艦上早期警戒機として計画されたものではありませんでした。

機体の概要と特徴

An-71は、ソ連のアントノフ設計局が開発したAn-72双発STOLジェット輸送機をベースに改造されました。

早期警戒管制機としての大型レーダーシステムを搭載するため、胴体後部は再設計されました。An-72の特徴である高翼配置の主翼上にエンジンが配置されており、その排気を避ける必要から、大型のレーダーレドームは垂直尾翼の最上部に設置され、機体全高は9メートルを超えています。レドームを機体の揚力中心に近づけるため、前進角がつけられています。

搭載されたレーダーシステムは「Vega-M」と呼ばれ、最大探知距離は350～370キロメートル、同時に400の目標を探知し、そのうち120を追尾可能な性能でした。多数の電子機器のため、発電機は増設され総発電容量は240kVAに強化されています。

搭乗員は6名（パイロット2名、航空機関士1名、オペレーター3名）で、搭乗区画は与圧されています。

エンジンはD-436Kターボファン双発ですが、重量増加による離着陸時の推力不足を補うため、尾部に補助エンジンとしてRD-38A（垂直離着陸機Yak-38Mからの転用）が搭載されています。

開発と試験

An-71の試作機は合計3機製造されましたが、飛行可能なのは1号機と3号機のみでした（2号機は静的試験機）。1号機は1985年7月12日に、3号機は1986年2月28日にそれぞれ初飛行しました。

飛行可能な試作機2機は、合計649ソーティ、1030時間に及ぶ試験飛行を実施しました。試験を通じて、全長短縮や垂直尾翼上レドーム、水平尾翼の移設による振動問題など、飛行特性に悪影響を及ぼす問題点が明らかになりました。しかし、改良の結果、1988年4月には必要な飛行安定性を確保することに成功しました。

計画の中止

技術的な課題を克服したAn-71でしたが、当時のソビエト経済の著しい悪化により、これ以上の開発や量産配備は不可能となり、計画は最終的に放棄されました。

海軍型に関する検討

試作機契約前の研究段階、1982年から1983年頃にかけて、カタパルトを備える将来の空母（ウリヤノフスク級）での運用を想定した海軍型（An-71K/An-75）に関する検討が行われました。

海軍型ではレーダーシステムに「Kvant-M」を搭載し、レドーム配置の変更などが検討されました。しかし、大型の機体を空母格納庫に収容可能なサイズに再設計するには、現実的ではないほどの時間と費用がかかると判断されました。このため、代わりにヘリコプターであるKa-27ヘリックスの早期警戒型（後のKa-31）が採用されることになりました。

An-71の海軍型構想がYak-44早期警戒機に敗れたため、という誤解がありますが、これは正確ではありません。ヤコブレフ設計局の初期の艦上AEW研究（Yak-443）は1983年には停止状態にありました。現在一般的にYak-44として知られるYak-44Eの開発が認可されたのは1989年1月であり、An-71の海軍型構想検討より後のことです。

主要スペック (An-71)

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