Apple III

Apple III：幻に終わったビジネスコンピュータ

Apple III（アップル・スリー）は、AppleがApple IIの後継機として、1980年に発表したビジネス向けのパーソナルコンピュータです。しかし、度重なる技術的な問題や、市場戦略の失敗により、商業的には成功を収めることができませんでした。

開発の背景

Apple IIは、VisiCalcなどのビジネスアプリケーションで成功を収めていましたが、ハードウェアやオペレーティングシステムには限界がありました。Apple IIIは、これらの弱点を克服し、ビジネス市場でのシェア拡大を目指して開発されました。

スティーブ・ウォズニアックによれば、Appleの経営陣はApple IIIの登場によってApple IIの販売がすぐに終わると信じていたようです。これは、Apple IIIをビジネス市場に特化させ、Apple IIを家庭用・教育用市場に位置づけるという明確な区分けを意図したものでした。

ハードウェアの概要

Apple IIIは、1.8MHzのSynertek 6502A/6502B 8ビットCPUを搭載し、最大256KBのメモリにアクセスできました。グラフィックスは、560x192ドットのモノクロと、280x192ドットの16色表示に対応していました。また、80桁24行表示、テンキー、内蔵5.25インチフロッピーディスクドライブなどを備えていました。

特徴的な点として、スクリーンフォントとキーボードレイアウトをユーザーが選択できる初のApple製品でした。

ソフトウェアの特徴

Apple IIIでは、Apple SOS（“Appleソース”）と呼ばれる新しいオペレーティングシステムが導入されました。これにより、周辺機器を物理的な位置ではなく名称で指定できるようになり、拡張性が向上しました。また、Apple ProFileハードディスクなどの大容量ストレージを単一ボリュームとして扱え、階層化ファイルシステム (HFS) をサポートしました。Apple SOSの技術は、後のLisaやMacintosh、Apple IIのProDOSやGS/OSにも影響を与えました。

Apple IIIには、Apple III Business BASICという新しいBASICインタプリタや、UCSD Pascalが導入されました。

AppleはApple IIIをホビイスト向けではないと見ていたため、Apple IIのような技術情報の公開は控えめでした。Apple IIIはApple IIとの互換性を持つように設計されていましたが、それは特別な“Apple IIモード”でのみ利用可能で、機能も制限されていました。これにより、Apple IIIの高度な機能が活用できず、ユーザーの移行を妨げる要因となりました。

周辺機器

Apple III用に、いくつかの新しい周辺機器が開発されました。オリジナルのApple IIIにはリアルタイムクロックが内蔵されていましたが、後のバージョンではオプションとなりました。また、最大3台の外付けDisk IIIフロッピーディスクドライブを接続できました。

派生モデル

1983年には、改良版であるApple III Plusが発売されました。Apple III Plusには、内蔵クロック、インターレースビデオ、標準化された背面ポート、256KBのRAM、新しいキーボードが搭載されていました。

技術的・商業的失敗

Apple IIIは、様々な要因が重なり、商業的に失敗作と見なされています。

ハードウェアの問題: 初期のApple IIIは、リアルタイムクロックの故障や、冷却機構の不備による発熱の問題が多発しました。ICチップがソケットから外れる、ディスクが溶けるといった深刻な事例も報告されました。
設計上の問題: ケースの設計が原因で、十分な放熱ができなかったことが指摘されています。また、ロジックボードの設計も未成熟な技術が用いられたため、はんだブリッジによるショートなどが多発しました。
* ソフトウェアの問題: Apple IIとの互換性が制限されていたことや、Apple III用のアプリケーションが少なかったことも、普及を妨げる要因となりました。

これらの問題により、Appleは製品のリコールを余儀なくされ、Apple IIIの評判は大きく損なわれました。

最終的に、Apple IIIは約65,000〜75,000台、Apple III Plusを含めても約120,000台の販売台数にとどまりました。

失敗から得られた教訓

Apple IIIの失敗は、Appleに多くの教訓をもたらしました。技術者主導ではなく、販売部門が主導した開発体制や、市場ニーズとのミスマッチなどが、失敗の原因として挙げられています。

しかし、Apple IIIのオペレーティングシステムであるApple SOSのファイルシステムやデザインのアイデアは、後のApple LisaやMacintosh、Apple IIのProDOSやGS/OSに受け継がれ、その技術的な遺産は決して小さくありません。

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