VisiCalc

VisiCalc（ヴィジカルク）とは

VisiCalcは、1979年に発売された世界初のパーソナルコンピュータ向け表計算ソフトです。それまでホビー用と考えられていたマイクロコンピュータをビジネスツールへと変貌させ、その後のコンピュータ業界に大きな影響を与えました。6年間で70万本、その後を含めると総計でおよそ100万本を売り上げた大ヒット商品です。

当初はApple II向けの版がリリースされ、Apple IIのキラーアプリケーションとしてその販売を牽引しました。その後、8ビットだけでなく一部16ビットのプラットフォームを含む様々な機種に移植されました。

歴史

VisiCalcの考案者はダン・ブリックリン、設計者はボブ・フランクストンです。彼らが設立したSoftware Arts社が開発を行い、Personal Software社（後のビジコープ）が販売を担当しました。1979年にApple II向けに発売されました。

VisiCalcの登場は、Apple IIを単なるホビースト向けの玩具から、実用的なビジネスツールへと変貌させるきっかけとなりました。これはIBM PCが登場する2年前のことでした。

着想

VisiCalcは、メインフレームなどで使われていた表計算プログラムに着想を得ています。特に、International Timesharing Corporation (ITS) のBusiness Planning Language (BPL)やForesight SystemsのForesightなどが参考になったと言われています。

ブリックリンは、ハーバード・ビジネス・スクールで教授が黒板に金融モデルを書いているのを見たことがきっかけで、VisiCalcのアイデアを思いつきました。教授が数値を修正するたびに、表全体を書き直さなければならないことに不便さを感じ、コンピュータ上で自動的に計算処理する電子式表計算ソフトを発想したのです。

当初、ブリックリンはポケットコンピュータでの実現を考えていましたが、最終的には既存のマイクロコンピュータ向けに開発することにしました。

指導教官や友人からは賞賛されたものの、コンピュータに詳しい教授からは、大型コンピュータ向けに既に存在するため、マイコン向けに作る必要性はないと否定的な意見も受けました。しかし、Personal Software社のダン・フィルストラを紹介され、彼から既存のハードウェア向けにソフトウェアを開発・販売する方が賢明だと説得されました。そして、フィルストラは当時ベストセラーだったApple IIでの開発を強く勧めました。フィルストラがApple IIを推奨した理由は、技術的な優位性だけでなく、スティーブ・ジョブズから大幅な値引きを約束されていたからだと言われています。

ブリックリンは友人のフランクストンと共にSoftware Arts社を設立し、開発を開始しました。

初期デモの作成

Personal Software社から借りたApple II上で、Integer BASICを用いて簡単なデモプログラムを作成しました。この初期デモはまだ機能的に不十分でしたが、画面構成は後の完成品に近いものでした。行と列にラベルが付けられ、セルにデータや式を入力できる機能を持っていました。このデモを見たフィルストラは感銘を受け、ブリックリン、フランクストンと製品開発に関する契約を締結しました。

本開発

1978年から1979年にかけての冬の2カ月間でVisiCalcの開発が行われました。開発は、Multicsタイムシェアリング・システム上で動くMOS 6502アセンブラを使用しました。当初16KBのメモリでの動作を目標としていましたが、最終的に32KBで動作するものが完成しました。メモリ容量の都合で、テキストとグラフィックスの分離表示などの機能は省かれました。しかし、メモリ価格の下落によりApple IIは標準で48KBのメモリを搭載して出荷されるようになり、メモリ容量の問題は解消されました。

Apple II躍進とIBM PC誕生への影響、他のプラットフォームへの展開

VisiCalcは、パーソナルコンピュータがビジネスツールとして有用であることを示し、Apple IIの躍進に大きく貢献しました。この成功が、それまでPC市場を無視していたIBMがPC市場に参入するきっかけになったとも言われています。その後、VisiCalcはAtari 8ビット・コンピュータ、PET 2001、TRS-80、IBM PCなど、様々なプラットフォームに移植されました。

課題とライバル製品の出現

VisiCalcは画期的なアイデアでしたが、当時ソフトウェアの特許が認められていなかったため、アイデアそのものを保護することができず、多くの競合製品が登場しました。SuperCalc、Multiplan、Lotus 1-2-3、ClarisWorksなどがVisiCalcよりも強力な機能を持つ製品を次々とリリースしました。特にMicrosoft Excelの登場は、表計算ソフトの新たな時代を切り開きました。

VisiCalcの開発元であるSoftware Arts社は、販売元のビジコープとの訴訟に忙殺され、VisiCalcのバージョンアップに注力できませんでした。特にIBM PC版の移植が遅れたことが致命的となり、売上は急減。最終的にSoftware Arts社はロータスに買収されました。

評価

Antic誌のレビュアー、ジョセフ・カッタンは1984年の時点で、VisiCalcは革新的なソフトウェアではあるものの、ユーザーが求める多くの機能が欠けていると指摘しています。

参考文献

Campbell-Kelly, M. (2007). “Number Crunching without Programming: The Evolution of Spreadsheet Usability”. IEEE Annals of the History of Computing 29 (3): 6–8.
Grad, B. (2007). “The Creation and the Demise of VisiCalc”. IEEE Annals of the History of Computing 29 (3): 20–20.

外部リンク

Dan Bricklin's Own VisiCalc Website - 歴史とダウンロード可能なPC版がある
Was VisiCalc the "first" spreadsheet? - By Dan Bricklin, on his website
Techdirt: What If VisiCalc Had Been Patented?
TRS-80 and more

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