Atari Jaguar

Atari Jaguar：64ビットの野望と挫折

Atari Jaguarは、アタリ社が1993年に発売した家庭用ゲーム機です。革新的なハードウェアを搭載しながらも、商業的には大きな失敗に終わり、世界で最も売れなかったゲーム機の1つとして知られています。しかし、その独特のアーキテクチャや、後のゲーム開発に影響を与えた点など、ゲーム史において無視できない存在感を持ち続けています。

ハードウェア：並列処理の挑戦

Jaguarの最大の特徴は、その高度なハードウェア構成にあります。64ビットシステムバスを採用し、5つのプロセッサが並列で動作するという、当時としては非常に先進的な設計でした。

メインプロセッサ(68000): システム全体の制御を担います。
GPU("Tom"): 32ビットRISCアーキテクチャのGPUは、プログラマブルな画像エフェクトや3D処理に対応していました。
オブジェクトプロセッサ: 64ビットの専用プロセッサで、スプライト処理やピクセル処理などを高速に実行できました。
ブライトプロセッサ: 64ビットのコプロセッサで、zバッファ処理やグーローシェーディングをハードウェアでサポートしていました。
* DSP("Jerry"): 32ビットRISCアーキテクチャのDSPは、オーディオ処理や汎用計算に使用されました。

これら複数のプロセッサが並列処理を行うことで、高度なグラフィック表現やサウンドを実現することを目指していました。しかし、この複雑なアーキテクチャが、開発の難しさやソフトウェアの不足につながったという指摘もあります。

コントローラー：使い勝手の悪さと伝説

Jaguarのコントローラーは、その独特のデザインと使い勝手の悪さで有名です。方向キーと複数のボタンに加え、テンキーのようなボタンが配置されており、ゲームソフトによって専用のオーバーレイを使用する必要がありました。この複雑な設計と、本体との接続部の脆弱さから、IGNが選ぶ「最悪なゲームコントローラーTOP10」で1位に選ばれるなど、その評価は芳しくありませんでした。「ネズミが家のどこかで屁をしたら抜け落ちる」という表現で揶揄されるほど、接続部の信頼性に問題があったとされています。

ソフトウェア：カートリッジとCD-ROM

ソフトウェアは、カートリッジとCD-ROMで供給されました。後発で発売されたAtari Jaguar CDは、CD-ROMドライブを追加することで、より多くのデータ容量を必要とするゲームに対応可能となりました。また、本体にはVLM (Virtual Light Machine) というソフトウェアが内蔵されており、CD-ROMのデータを利用した映像変換機能を提供していました。しかし、ソフトウェアタイトル数は少なく、商業的な成功を収めるには至りませんでした。

周辺機器：未実現のVR技術

Jaguar向けの周辺機器として、Jaguar VRが計画されていました。ヘッドトラッキング技術を用いたVRヘッドセットで、アタリのゲームを3Dで体験できることを目指していました。しかし、Jaguarの販売不振とアタリ社の経営悪化により、開発は中止されました。

日本での展開：限定的な販売

日本ではムーミンが輸入代理店となり販売されましたが、販売店舗が限られていたことなどから、販売台数は非常に少なく、商業的な成功は収めませんでした。

失敗とその後

Jaguarは、技術的には先進的でありながらも商業的には失敗に終わりました。その複雑なアーキテクチャや使い勝手の悪いコントローラー、そしてソフトウェアの不足などが、販売不振の要因として挙げられます。この失敗は、アタリ社のハードウェア事業撤退にもつながり、その後、アタリ社は長らくハードウェア事業から遠ざかることになります。しかし、その挑戦的なハードウェア設計は、後のゲーム開発に影響を与えたと考えることもできます。Jaguarは、成功しなかったものの、ゲーム史に独自の足跡を残したゲーム機と言えるでしょう。

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